主人公のライバルが初めて登場するシーンは、そのキャラクターの特徴と強さを印象づける重要なポイントだ。従って作者もそのハッタリには智恵をしぼり、工夫を凝らす。
出てくる人物一人一人がいちいちハッタリをきかせながら現われるのが『アストロ球団』。例えばロッテが超人球団をつぶすために招いた代打者リョウ・坂本の登場シーンは、いきなり風のないドーム球場につむじ風が巻き起こり、その風の中から「人間──50年──化転のうちにくらぶれば──」と歌いながら袴姿でやってくる。
『巨人の星』では、球場の外に飛んできたボールを、学生服の少年が、カバンに差していたバットを引き抜いておもむろに打つ! それを見て驚く星飛雄馬と伴宙太。実はその学生服の少年は熊本農林高校野球部の左門豊作だった。
──と、この左門のように飛んできたボールを打ち返す、投げ返すというのは、実は多くの魔球漫画で使われているパターンで、ホームラン球をスタンドから打ち返したり、バックスクリーンからキャッチャーに投げ返しても驚くには当たらない。
そんな中で、『おれの甲子園』の黒木二郎の登場シーンは、かなりインパクトがあった。
ある日、主人公反町挑児が走る電車の中で逆立ちしている男(!)を発見。男の脇にバットが立てかけてあることから、挑児は「こいつは野球をやる」と判断、いきなり男に向かって魔球・殺人ボールを投げつける(おい!)。もちろん黒木二郎は難なくかわすのだが、この黒木くん、それ以後、挑児と対戦はおろか言葉を交わすこともなく、高校を中退してロッテに入団。後に甲子園で挑児たちの試合を見て感動し、つぶやく。「おれも、もう少し高校で野球を続けてもよかったな…」
彼は何のために登場してきたんだろうか。