第1章 伝説の魔球バカ『巨人の星』の小宇宙

地獄の大リーグ=ボール養成ギプス!!

『スターウォーズ』然り、『銀河鉄道999』然り。父と子の確執は、時に全宇宙をも巻き込む壮絶な戦いとなる。──『巨人の星』(原作・梶原一騎、作画・川崎のぼる)は、昭和41年から4年9ヵ月にわたって「週刊少年マガジン」に連載された、これもまた父と子の果てしない戦いを描く壮大な叙事詩だ。
 いまだにスポ根漫画の代表作といえば『巨人の星』か、同じ「週刊少年マガジン」でその2年後に連載が始まった『あしたのジョー』(昭和43年〜昭和48年、作画・ちばてつや)をあげる人が多いが、これがどちらも同じ梶原一騎の原作作品(『あしたのジョー』の筆名は高森朝雄)で、1人の原作者が1つの週刊誌に2つの看板作品を同時連載していたというのは当時としてもかなり驚きだった。
『巨人の星』については今さらあらすじを書くのもおこがましいが、一応ざっと紹介しておくと、父と姉と3人で長屋暮らしをする貧しい少年・星飛雄馬が、もと巨人軍の選手だった父・星一徹の鬼の指導の元で野球の腕を磨き、巨人の星を目指して根性を燃やすという物語だ。以上。ホントにざっとだな(笑)。
 しかしそんなシンプルな物語がいまだに伝説となっている理由のひとつには、この作品のキーワードである根性≠表現するために「これでもかっ」とばかりに描かれる過剰すぎる描写の魅力がある。
 その代表が大リーグ=ボール養成ギプス≠セ。幼い星飛雄馬の上体を革ベルトとスプリングでギリギリ緊縛するという、父・星一徹渾身の手作りアイテム。大リーガーのような体を鍛え上げるのが目的だというが、それ以外にもいろんな趣味の人に歓迎されそうなナイスグッズである。この大リーグ=ボール養成ギプスのおかげか、星飛雄馬は抜群のコントロールと球速を身につけ、その左腕で念願の巨人入りを果たす(ここまでにも大変な山がいくつもあるんだけどね)。しかし体の小ささからくるボールの致命的な軽さが発覚するや、自慢の速球もライバルたちに次々と打ち込まれ、ホームラン製造投手とまで呼ばれてしまう。
 その欠点を克服するため、星飛雄馬は魔球大リーグボール1号≠フ開発に着手するのである。ここで驚くのは、星飛雄馬が最初の大リーグボールを完成した時点で、それをもう大リーグボール1号≠ニ呼んでいることだ。つまり星飛雄馬の頭の中には、この時点ですでに2号以降の魔球を開発する予定があったことになる。その事実をカンのいいライバルの花形満(阪神タイガース)も左門豊作(大洋ホエールズ)も指摘していないのはどういうわけなのだろう。
 一度魔球に手を染めてしまった投手は、それが敗れるたびに次の魔球を開発しなければならない…。星飛雄馬もまた、幾多の魔球投手が辿った宿命の道をすでに歩み始めていたのである。

 大リーグボール1号は、バッターが構えたバットにわざとボールを当て、凡打にしてアウトに取るというアイデア魔球だ。バッターがバットをどのように構えていてもその動きを予測し確実にボールを当てる。星飛雄馬は、その神技のような読心術を体得するためにボクシングをやり、剣道をやり、警察の射撃訓練場を覗き見た。これらはどれも、相手の筋肉や視線の微妙な動きから次の行動を予測する能力が要求されるスポーツだからだ。そうして星飛雄馬はついに相手のバットの動きを100パーセント予測することが可能になったのである。
 大リーグボール1号のデビュー戦は7対1で巨人が大洋に圧勝。星飛雄馬は泣いた。テレビを見ていた父も姉も泣いた。『巨人の星』のキャラクターはみんな泣き虫なのだ(24ページコラム参照)。
 因みにぼくも子供の頃は泣き虫で、幼稚園で自分のカバン掛けに誰かのカバンが掛かっていただけで「ぼくのカバンが掛けられないー」と言って泣いてたんだけど、本文とは全く関係いですね。スミマセン。

大リーグボール1号をめぐるアイデア勝負!!

 大リーグボール1号が登場するや、宿命のライバルたちは知恵の限りを尽して打倒をはかり、星飛雄馬もまたそれに対抗する奇策を講じて応戦する。その丁々発止のアイデア勝負はゲームの行方を2転3転させ『巨人の星』全編の中でも大きな見どころになっている。
 まず花形満は、バット目がけて飛んでくる大リーグボール1号を防ぐために、バットを体の後ろに構えて打席に立った! これではボールをバットに当てられない。どうする星飛雄馬!! しかし星飛雄馬は少しも動じず、ただのストレートを投げてあっさりとストライクに取った。そりゃ誰だってそうするでしょう花形くん(笑)。
 だが花形満はめげない。次の打席では彼はバットを自分の顔の前で構えた。もし星飛雄馬が投球を誤ればボールは花形満の顔面を直撃する。彼は星飛雄馬がその恐怖に耐えられるかどうかに賭けたのだ。しかしそれでも星飛雄馬は、抜群のコントロールでボールをバットに当て、アウトにしたのだった。
 これで本気になった花形満は、目の中に炎を宿しながら地獄の特訓を行い、ついに大リーグボール1号をホームランに打ち取る技を体得した。
 その方法とは、バットを構えた状態で、ボールがバットに当たった瞬間その体勢から無理矢理フルスイングをするという荒技だった。
 そして花形満はついに大リーグボール1号から大ホームランをもぎとったのだが…この超無理な体勢からの打撃は花形満の体をボロボロにしていた。アナウンサーが花形満の診断結果を読み上げる「三角筋、大胸筋、大円筋などの筋肉の裂傷および筋ちがい さらに肩および手首などの複雑骨折…」。解説者・青田昇は花形のプレーに感動し、「男が本気で勝負すればそういうもの!」と言って目の幅で涙を流した。
 もちろんこの打法を封じるために星飛雄馬もすぐさま特訓を開始した。星飛雄馬は揺れる小船の上で、糸で吊るした50円玉にボールを命中させる練習を繰り返したのだ。この特訓の意図とは、ボールをバットの手元、つまりグリップヘッドに当てる目的があった。グリップヘッドにボールを当てられては花形満の強引な打法も通用しない。もちろん花形も2度とあんな無茶な打法はやらなかったが、この秘策によって星飛雄馬は理論的には花形の打法にも勝ったと言えるのだ。みんなホントに負けず嫌いですからね、作者も両方立てるのが大変です(笑)。
 大リーグのセントルイス=カージナルスが来日した時には、カージナルスが15年がかりで養成した野球人間・アームストロング=オズマが、打倒大リーグボール1号の秘策を用意していた。その秘策とは実に簡単なもの。ボールがバットに命中する寸前にバットから手を離しバットを落として、判定をただのボール球にしてしまうというものだった。しかし星飛雄馬は、落ちる途中のバットにボールを命中させる離れ業をやってのけ、この秘策をも封じたのであった。
 ところで、明子に家を出て行かれて一人ぼっちになった星一徹は、アームストロング=オズマを中日に入団させることを条件に、中日ドラゴンズのコーチに就任する。鬼の星一徹、まさか一人で家にいるのが寂しくなったわけじゃないとは思うけど…ホントは少し寂しいんじゃないの?
 と、それを裏付けるように星一徹がオズマにまずプレゼントしたもの、それはまたもや愛情たっぷりお手製の大リーグボール打倒ギプス≠ナあった! ドターッ(コケた音)!! 星一徹、不器用な男ですから、こんな形でしか愛情を表現できないんです。わかってあげてください。
 そしてアームストロング=オズマは、今度こそ星一徹に授けられた秘策によって大リーグボール1号を打ち取った。そのやり方はバットを落とすより簡単なことだった。星飛雄馬が投球する瞬間に、オズマがバットをストライクゾーンに出す。そうすると大リーグボール1号は、ボールの方からバットに当たりにやってくるのだ(!)。あとは星一徹の愛情ギプスで鍛えた腕で思いきりフルスイングすればよいのだった。
 かくして大リーグボール1号は、中日球場に巨大なアーチを描く満塁ホームランとなった。
 それにしても野球は本来チームワークのスポーツなのに、ほとんどピッチャーとバッターのタイマン勝負になってます。『巨人の星』、潔いです。男の漫画です。

かくて2号≠ヘ生まれ、そして消えた

 アームストロング=オズマ&星一徹コンビに大リーグボール1号を打たれた星飛雄馬は、新魔球の開発に着手する。
 そして少女の鞠つきがヒントとなって完成した新魔球大リーグボール2号≠ヘ魔球の定番・消える魔球だった!
 右足をほとんど垂直まで蹴り上げる独特の投球フォームから投げられたボールは、打者の直前でいきなり姿を消し、再びホームベース上に現われてキャッチャーミットにおさまる。
 この大リーグボール2号の正体は、父・星一徹がかつてそれを使ったために巨人軍を追われた魔送球≠アレンジしたものだった。魔送球とは──@塁に向かって走るランナーを差すために投げたボールが、ランナーの頭を直撃しそうになる。A一瞬その場に立ちすくむランナー。だがボールはランナーの直前で大きく方向を変え、塁を守る味方選手のグローブにおさまる、というもの。このビーンボールまがいの送球に、当時チームメイトだった川上哲治は「王者巨人軍は決してビーンボールを投げない!」と叫び、星一徹は巨人軍を去ったのである。
 大リーグボール2号は、この魔送球を縦に変化させたものだった。ボールは、ホームベースの直前に達したところでいきなり地面すれすれに急降下しそこで土煙を巻き上げる。それによってボールは霞み、ホームベース上で再び浮上してキャッチャーミットにおさまるのだ。だがしかし、これだけではボールは完全に消えない。それを完全に消すプラスアルファの秘密が、足を高く上げる投球ポーズにあった。足を高く上げてスパイクで土を蹴り上げる。その土煙の中をボールが通過する時、ボールの縫い目に土がからみつく。その土をまき散らしながら飛ぶボールが、地面すれすれで巻き上げた土煙の中に入り、両者の色が溶け合ってボールを隠してしまうのであった。花形満曰く「大リーグボール2号は保護色の魔球」だったのである。
 ボールが地面の土をまきあげるほど高速回転するとしたら、最初に縫い目にからみついた砂なんていっぺんで吹き飛んでしまうんじゃないかと思うのだが…ほら、そこは魔球ですから、ツッコまないでおきましょう(笑)。
 当時草野球でこのフォームをマネて転倒したり股関節を痛めた少年、推定1万人(根拠なし)。
 星飛雄馬は、鞠つきをする少女が足を上げて足の間に鞠をくぐらせる動作をしていたのを見てこの魔球のヒントをつかんだ。でも今じゃ鞠つきをする少女なんてどこにもいないから、もし現代だったら星飛雄馬の大リーグボール2号はまるで別の魔球になっていたかも。いや、仮に鞠つき少女がいたとしても、その少女がぱんつ丸出しで足を上げるのをジッと見てたりしたら、星飛雄馬はケーサツに連れていかれて別の意味でニュースになっていたに違いない。魔球のヒントも見つけにくい世の中になったもんである…。
 因みにこの原稿を書いている平成9年の8〜9月頃、ちょうどテレビで、玉置浩二が夜のグラウンドで「魔球っ!」と叫びながら投げたボールが消えるという、トヨタ・クレスタのCFが放映されていた。これは明らかに『巨人の星』世代のスタッフが作ったものですね(笑)。

 さて、この大リーグボール2号を打倒するために再びライバルたちとの智恵くらべが始まった。
 アームストロング=オズマは、自慢の超高速スイングでストライクゾーン中バットを振り回すという、子供のケンカパンチのような打法に出た。しかしこれは、キャッチャーのグローブにバットが当たり、打撃妨害として塁には出たものの、打ち取るまでには至らなかった。
 続いて打倒寸前まで肉薄したのが中日にトレードされた伴宙太だ。伴宙太はまず星飛雄馬が投げてきた大リーグボール1号に対して、体を倒れ込ませながらバットにボールを当てることで、2球続けて大リーグボール1号をファウルにする。傾いた伴宙太の体は2度ともそのまま地面に激しく転倒。そして3投目。いよいよ大リーグボール2号で勝負に出た星飛雄馬は、投球直後にいきなり色を失ってホームベースの方へ走り出す。「き…消えないっ」「土けむりがたたん!!」と叫びながら。
 実は伴宙太は体を地面に倒す時に、ホームベース手前の地面を土煙が立たないように体で圧し固めていたのだ。しかし伴宙太が強打した球は高々と上がるピッチャーフライになった。実はこの時星飛雄馬が投げた大リーグボール2号は、外角はずれのボール球だったのである。自分でそんなクソボールを投げておきながら大慌てするなんて、星飛雄馬も大した役者である。
 そしていよいよ魔球打倒のアイデア王・花形満がバッターボックスに立つ!
 まず彼が最初に試みた打倒法は、3塁にランナーがいることが必要条件となる。星飛雄馬が投球した直後、3塁ランナーがホームスチールを敢行! ランナーはホームベース手前で地面に倒れ込み、両手でボールが土煙を立てる場所を覆ってしまうのだ。それによってボールは完全には消えなくなり、花形満は打つ!
 もう一つの打倒法は、投球寸前に花形満がお辞儀をするように頭を下げ、地面にヘルメットを落とす。するとこれもヘルメットに妨げられて土煙が立たず、ボールは完全には消えなくなり、花形満は打つ! 結局、どちらも好守備陣に守られて結果はアウトに終わったが、すでにこの時点で大リーグボール2号は敗れていたといってもいいだろう。
 ところで実はこれらの奇策をすでに思いついていた男がもう1人いた。巨人軍の長嶋茂雄選手だ。長嶋茂雄は花形満がこの打倒法を見せた直後、「じつをいうとおれは花形の3塁ランナーを利用する作戦もぼうし落とし作戦もとっくに考えついていた」と発言して、星飛雄馬や川上哲治監督を「えっ!」と驚かせる。だったらもっと早く言ってくださいよぉ長嶋サン(笑)。
 そしてさらに花形満の挑戦は続く。花形満は星飛雄馬が大リーグボール2号を投げようと足を上げた瞬間、いきなり片足を上げて一本足打法のようなポーズを取った。そして投げられた大リーグボール2号は、土煙はあがったもののなぜかボールが変化せず完全に消えない! そして打たれたボールはレフト場外へ飛ぶ大ホームランとなったのであった。
 ボールが変化しなかった理由は、花形が突然片足を上げたことで戸惑った星飛雄馬の足上げが中途半端になってしまったためだった。これ以前に2つの奇策を見せられていた星飛雄馬は必要以上に警戒心が強くなっていたのだ。ところでこの奇策についても長嶋茂雄さんはすでに考えついておられたのでしょうか。………どうやら全くコメントされていないようです。ハイ。

星飛雄馬、挫折から復活へ…

 続く大リーグボール3号≠ヘ、アンダースローから親指と人差し指だけで押し出すように投げられるヘナヘナのスローボールだった。ところがこのスローボールがバットをよけて通る! 実は軽くただようボールは、猛スイングのバットがおこす風によって押し流されジャストミートを拒むのだ。そして皮肉にもこの魔球を可能にしたのは星飛雄馬の天性の球質の軽さだった。
 ところが星飛雄馬の左腕は、この大リーグボール3号の投げ過ぎで、すでにボロボロとなっていた。「このうえ野球を続ければ、ピシッと音がして、伸筋と屈筋が切れ、左手の指は永久に動かなくなる」医者は星飛雄馬に忠告する。しかしなおも大リーグボール3号を投げ続けた星飛雄馬の左腕は、その通りにピシッと音がしてついに動かなくなってしまったのだった。

──それから6年後の昭和51年、星飛雄馬は『新巨人の星』として「週刊読売」誌上に復活を果たした。
 これにかなり近いのが、実際の本当野球選手・巨人軍の桑田真澄投手のケースである。
 平成7年5月24日、対阪神戦で、ファウルフライをダイビングキャッチ、右肘から落ち、その投手の命とも言うべき利腕の「副靭帯」を断裂。要するに「腱」が切れた、と言うことです。関節の運動を制御する繊維質組織の破損。星飛雄馬ですね。貝柱もまた靭帯と呼ばれ、貝の場合は貝殻を開く動作を司るわけですが、それがゲロゲロになってしまったということで、これは投手でなくとも一大事すぎます。かなり相当ヤバイといったところで、もし自分の身に降りかかったら、と思うと、ちょっと想像するだけでも怖いです。
 桑田選手は、渡米してロサンゼルスの病院に入院。平成7年10月。……全身麻酔。左手の腱を右手の破損部分に移植するという大手術。これも考えるだけで怖い。そして始まる単調なリハビリの日々。
 再びマウンドに立ったのは(公式戦登板)、平成9年4月。683日ぶりのことであった。
 無論、球が投げられるというだけでは意味がない。桑田投手は、140キロの速球を放ち、復活第1戦では見事に勝利投手に! 桑田エライ! 君こそ飛雄馬だ顔以外は。
 この復活戦で、桑田は、試合直前、マウンドに片膝をつき、祈りを捧げるように土に手術した腕を当てるという劇的なポーズを作ってくれました。絵になりますねー。新聞&雑誌&TV、全メディアが、この「祈り」の映像を感動的に伝えていたのですが……その、これ、ドジャースのかつてのエースのハーシュハイザーが肘の怪我から奇跡の復帰した時のポーズと同じなんですけど……。
 だから何だ、と言われてしまえばそれまでですが(桑田選手だって、本当に心から祈っていただろうし、野球や周囲のモロモロに本当に感謝していただろうしな)、ただ、どのメディアも、まるで桑田選手オリジナルの祈りのように報道していたのが、ちょっと気になっただけだ。
 ま、アレでしょう、星飛雄馬だって『新巨人の星』の見えない所できっと同じようなことをしていたでしょうたぶん、あの性格なら(……そうか?)。
 関係ないけど、かつて(2〜3年前だったと思う)野球中継の副音声でやった、星飛雄馬と星一徹ふたりの中継解説というのには大笑いした(声優もちろんそのまま同じ)。外人選手で黒人が出て来ると、一徹がすかさず「おおっ、オズマじゃ! オズマ!」とか叫んで(しつこく、黒人選手が映る度に「オズマ!」と叫ぶ)、飛雄馬は飛雄馬で「俺たち本当は何歳なんだよ」とか(たぶん)アドリブで、『巨人の星』の世界そのままだけにメチャクチャな実況(実況になっていない)。もちろんふたりの声優さんは「飛雄馬!」「父ちゃん!」と呼び合ってくれていた。また是非やってもらいたいものだ。

 さて『新巨人の星』で久々に帰ってきた星飛雄馬は、伴宙太の全面的なバックアップによって右投手としての復活を果たす。実は星飛雄馬は本来は右利きだったのだ。それを幼い頃、父が無理矢理左投手として育てたのである。初めて続編で明かされたこの衝撃の真実には本当にビックリしました。
 そんな星飛雄馬の右投手としての復活を祝って、星一徹は飛雄馬に愛情あふれる手作りのプレゼントを手渡した。はい、もう皆さんお分かりですね。そう大リーグボール養成ギプス右投手用!! こんどは下半身を鍛えるべく腰から足にかけて装着するギプスでありまして、ちょっと気を抜くとガシャーンとばねが縮んで、赤ちゃんのような格好になってしまいます。寮長の前でもガシャーン。女子高生の前でもガシャーン。これは鍛えられます精神力が。羞恥心ゼロになりますから。
 さて、そして完成した大リーグボール右1号≠ヘ、ボールが3つに別れて見える魔球だった。王貞治が名づけた別名が蜃気楼の魔球=B
 しかし残念なことにこの魔球に関しては読者には原理の説明はない。ただ、花形満(ヤクルトでプロ野球に復帰)はその原理をつかんでいるらしく、3つのボールのうち1つにだけ影があり、その影のあるボールを打てばいいと断言し、そのための特訓に励む。
 また左門豊作も、その言葉をヒントにバットに当てることには成功した。
 しかし今回は、花形との決定的な勝負を見る前に『新巨人の星』はバタバタと完結してしまった。そして大リーグボール右2号や右3号はついに登場しなかったのである。
 そう言えば、途中から大リーグボール右1号≠ニ言わずに蜃気楼(の魔球)≠ニばかり呼んでいたのがひそかに気にはなっていたんだけどね…。
『巨人の星』のテレビ化は昭和43年3月30日〜昭和46年9月18日、読売テレビ系にて全182回放映。カラー30分。製作は東京ムービー。声の出演は古谷徹(星飛雄馬)、加藤精三(星一徹)、井上真樹夫(花形満)、八奈見乗児(判宙太)。音楽・渡辺岳夫。
 当時の人気アニメは『魔法使いサリー』、『リボンの騎士』、『ゲゲゲの鬼太郎』などで、野球漫画のアニメ化は皆無。スポンサーの大塚製薬もとりあえず2クール(26回)だけの予定だったというが、いざフタを開けてみると常時20パーセント以上の高視聴率をマークし、一躍人気アニメのトップに踊り出てしまった。また、アニメは子供が見るものという概念を覆し、視聴者層の幅を一気に広げたという意味でも意義は大きかった。
 映像的にも、ケレン味たっぷりの劇画風描写や大仰な効果音は当時としてはかなり斬新で、後のスポ根アニメに大きな影響を与えた。また、星飛雄馬がマウンドに立ったまま、わずか数投しか投げずに30分が終わってしまう回があるなど、構成の妙も忘れがたい。
 因みに『巨人の星』といえば卓袱台、卓袱台と言えば星一徹。星一徹は怒ると卓袱台をひっくり返すのだと記憶している人も多いが、実は星一徹はわざと卓袱台をひっくり返したことは1度もなかった(星飛雄馬を平手で叩いた時に、卓袱台が浮き上がって上の食器が落ちるシーンはある)。これも多分、テレビアニメでハデにひっくり返る卓袱台の印象が強かったために、多くの人がそう記憶していたのだろう。


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