こどもの夢をえがき続けた「ドラえもん」の作者
藤子・F・不二雄
監修/藤子プロ、作画/さいとうはるお、シナリオ/黒沢哲哉
このシリーズでは、『エジソン』から『ナイチンゲール』まで、ずっと近代の偉人の伝記を書かせていただきましたが、今回初めて現代の、しかも尊敬すべき藤子・F・不二雄氏を描かせていただくということで、緊張しまくりの仕事でした。個人的なことですが、昨年暮れに藤子・F・不二雄先生の葬儀に行った直後に編集長から本書の仕事の依頼をいただいたのもぼくとしては不思議な縁を感じています。
しかし昨年秋に故人となられたご本人以外は、関係者のほとんどが健在である中で伝記を書くというのがこれほど大変だとは思いませんでした。取材人数もこれまでで最多で、しかもシナリオの"とりあえずの"決定稿が上がった段階で、編集長は10人以上の藤子プロ関係者、小学館関係者などにシナリオをチェックしてもらったということです。
それだけ作品としての制約も多く、まんがとして面白いかとか、ドラマチックな演出がなされているかとなると「うーん」なのですが、それだけに、より真実に近い藤子・F・不二雄(藤本弘)氏の像が見えてくるのではないかと思います。
今回、藤本氏のお母様(健在!)や奥様、弟様から取材して伺った新たに明かされた事実も書き加えられています。ぜひお読みください。
因みに、本書の作画は、当初、2人の藤子不二雄氏のアシスタントを10年以上勤められた方倉陽二氏が担当されるはずでした。ところが方倉氏は、作画に入る直前で突然の病気によって急逝されました。ぼくが方倉氏とお会いしたのは、仕事場での藤本氏像についてお話を伺うためにお会いした一度きりでした。わずか2時間の一期一会。もちろんその取材も本書には生かされております。また作画も方倉氏の後輩で晩年の藤本氏の右腕と言われたさいとうはるお氏によって素晴らしいものになりました。
藤本弘氏と方倉陽二氏のご冥福を心からお祈りいたします。
(黒沢)
97/10/10発行 小学館 本体価格:850円+税 ISBN4-09-270111-X