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GUNS&ミリタリーおもちゃ箱

第7回:夏の終わりの花火


中国江西省製の戦車型花火・タンク烟火。全長102mm(砲身含む)と小型ながら、完全手作りでかなり手間がかかっている。いわゆるレトロというやつね。今回、花火特集を思い立ったのも、店頭でこの花火を見つけたからだ。

砲身の付け根の導火線に火をつけると、砲身と、なぜか砲塔のテッペンからも火を噴く。砲塔は見る見る焼けコゲてくるし、なんだか哀れな花火ではある。

1991年2月製造とある。車輪まで付いていて、燃やすのが惜しい。120円で購入。

手留弾型煙幕は昭和40年代からの定番だ。煙の色が途中で変わる。
商品名Zミサイルゴールド。笛を鳴らして飛び、空中で破裂。発射台付きで打ちあげ簡単。


以前は沢山の種類があったマシンガン(ピストル)型花火。今年はついにこのタイプしか見つからなかった。ますだ花火製ピストルB。絵柄が片面にしか印刷されてないゾ。
火薬の勢いで日の丸の旗が30cm以上の高さまで飛び出す。'90年中国江西省製。
商品名Zミサイルゴールド。笛を鳴らして飛び、空中で破裂。発射台付きで打ちあげ簡単。


以前は沢山の種類があったマシンガン(ピストル)型花火。今年はついにこのタイプしか見つからなかった。ますだ花火製ピストルB。絵柄が片面にしか印刷されてないゾ。

お見事!コッた仕掛けの中国花火

 今年の夏は猛暑だった。7月末のある日、その晩も熱帯夜確実という夕方、久々に童心に帰って花火をしようと駄菓子屋へ立ち寄ったぼくは、そこで上の写真のタンク型花火を見つけた。
 そういえば花火にもミリタリーっぽい素材の物は多い。手留弾型煙幕やロケット弾、打ち上げ花火からパラシュート兵が降下してくるものなどなど…。暑さと水分の取りすぎでボーッとした頭の中にある考えが浮かんだ。 「このページのネタになる」
 さっそくぼくはミリタリー花火を求めて再び近所の駄菓子屋を回った。ぼくの住む東京の葛飾区周辺にはまだ駄菓子屋がたくさんある。ところが…!! あるにはあるのだが、どこの店も種類が極端に少ない。ラインナップはせいぜい20〜30種類といったところ。おまけにどこへ行ってもほとんど同じ物しか置いてない。
 店のおばちゃんの話によると、最近は、よく売れるのはコンビニやスーパーにある袋詰めされたセット花火ばかりで、バラで買って行く子供は少ないのだそうだ。
 ここに紹介した花火も、今年の新作ではなく、ほとんどがデッドストックとして店に売れ残っていた商品だ。
 タンク型花火・タンク烟火は3年前に造られたもので、粗悪なボール紙に赤と青の2色で印刷されたボディは、まるで昔の月刊まんが誌の組み立て付録のよう。 火が消えた後で運よく車体が燃え残っていたら、底を切り抜いて糸車と輪ゴムを取り付ければ、懐かしの糸車戦車が作れそうだ(今どきそれで喜ぶ子供がいるかどうかはわからないが)。
 このタンク烟火をはじめ、今回ぼくが面白いと思って買った花火はほとんどが中国江西省製造≠ニクレジットされたものだった。
 中国製花火は日本製花火に比べて、火の色や燃え方がシンプルなかわりに、本体の形やギミック(仕掛け)にコッたものが多い。
 藤子不二雄のまんが『魔太郎がくる!』の中に、中国帰りのおじさんが魔太郎に友誼塔という花火をお土産にくれるシーンがあった。友誼塔は地面に置いて火をつけるとコマのように回転し、五重の塔が伸び上がる花火だ。今回はそのバリーエションで、糸でつるすタイプの五重の塔・寳塔燈を紹介した。どちらもパーツ数が多く、完全手作り。人件費の安い国でないと作れない商品だ。
 それともう一つ、中国製花火の昇旗。円筒の側面についた2つの花火が激しく回転した後に、勢い良く日章旗が立ち上がる。太平洋戦争を知る中国人のお年寄りには、いまだに日の丸に拒否反応を示す人が少なくないという。その中国で作られたことを考えると、かなりブラックなジョークかも。遊んだ後、必ず日の丸がちょっと焼け焦げるのも深読みするとけっこーアブナかったりして(笑)。こうして戦車やミサイルと並べると、実に危 険な香りがしてるでしょ。学校での日の丸掲揚を強制しようとしてる日本の文部省が見たら、喜ぶかそれとも怒るか!?

ロングセラー花火コンバットスモーク

 昭和40年代は、子供おもちゃのプラスチック黄金時代だった。家内制手工業的な玩具の最右翼である花火の材料にも、この頃からプラスチックが使われ始める。
 そんな時期に登場したのが手留弾型煙幕・コンバットスモークと、笛を鳴らしながら飛ぶ安定翼付きのロケット花火である。当時売っていたものと同一製品かどうかはわからないが、今回紹介したのはどちらも三河花火・INATOKU≠ニクレジットされた日本製だ。
 コンバットスモークは、煙幕という地味な花火ながら、何といってもビニール製の手留弾型ケースがカッコいい。おまけに、ライターなどで火をつける必要がなく、マッチ箱の側面のすり板でこするだけで着火するというスマートさにぼくはシビレていた。
 戦争ゴッコをするときには、腰のベルトにマッチ箱をつぶして、はさんでおく。ポケットから取り出したコンバットスモークの点火口をそこにこすりつければ、まさに戦争映画の手留弾投てきシーンが再現できるのである。
 実はこのやり方は、昭和30年代に近所のちょっと不良がかったお兄ちゃんが、こうして2B弾に点火していたのを覚えていたものだ。ところが、ぼくが2B弾 で遊べる年齢になった頃には、暴発する危険性が高いという理由で、すでに2B弾は発売中止になっていた。クラッカー、爆竹などは2B弾と違いマッチで火をつけなければならない。それでは戦争ゴッコのテンポが台なしになってしまう。というわけで、ぼくらはコンバットスモークを大歓迎したのであった。

ピストル型花火の衰退は許せない!!

 最後に、どうしてもこのページに載せたくてあちこち探し回ったのがピストル型花火だ。以前は、拳銃タイプやライフル、マシンガンタイプなど多種多様で、伸縮するフォールディングストックの付いたカービン銃や、レバーの動くM73もどきのレバーアクションライフル、中折れするリボルバー拳銃など、一部が可動するものもあったりして、ひとつのジャンルを成していた。それが今年は上のようなチャチな光線銃しか見つからなかった。しかもイトーヨーカ堂のセット花火の中に入っていたので、これだけのために税込み618円を出したのである(涙)。
 パラシュート降下兵の打ち上げ花火はついに見つからなかった。これも人形がプラスチック製、ビニール製、紙製、パラシュートがビニール製、紙製、迷彩模様などとたくさん種類があったのだが…。
 それと、今回入手が間に合わなくて残念だったが、最近の面白い花火で、M72ロケットランチャー型の花火がある。後日入手出来たら、また紹介しましょう。
 昭和30〜40年代、夏が近づくと駄菓子屋の店頭からはアンコ玉など生菓子の類が消え、そのスペースにカラフルな花火がズラリと顔を揃える。その数はどこの店でも50〜60種類はあったように思う。子供たちは平たい菓子の空き箱を手にして、そこへ欲しい花火を選び入れながら、何度も何度も往復し、真剣に品定めをした。
 ともかく、今回は、花火業界が文字どおり下火になっていることを知って驚いた。中国花火もすでにコッたものは新たには入って来ていないようだし、一時流行した妖怪花火も今年は全く見られなかった。
 子供の頃、火遊びをするとオネショをすると教えられた。その子供が唯一、親の目の前で堂々とできる火遊び、それが花火だった。

(「コンバットコミック」1994年10月号掲載)

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