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特集コラム -第3回-
荒野の決闘に敗れた日?
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それは何かのお祝いの日だったのだろうか。昭和39年の秋、当時小学1年生だったぼくは、上野の松坂屋デパートで1丁のピストル玩具を買ってもらった。
増田屋というメーカーが発売していたコンドル・コルト45というピストルだ。
当時大流行していた西部劇ドラマで、ヒーローのほとんどが手にしていたコルト社製の6連発を模した玩具である。
実物よりひとまわり小さいが、全体のシルエットは本物を良く模していて、これを手にすれば自分もたちまち憧れのガンマン、『ララミー牧場』のジェスになり切ることが出来たのだ。
だがコレを買ってもらうのは容易なことではなかった。
このピストルの当時の値段は、手元にある雑誌『少年』昭和39年9月号の通販広告によると、銃本体が350円、別売りのガンベルトが220円となっている。
つまり、かけそば1杯50円の時代に、コンドル・コルト45は何とその7倍もしたのである。
1か月の小遣いが100円だったぼくにとって、これはまさに夢にまで見たピストルだったのだ。
翌日、ぼくはこのコルト45を携え、付属の保安官バッジを付けて線路脇の原っぱへと向かった。
当然、その日の鉄砲ごっこの主役はぼくだった。
ところがそこへ隣町の小学校の子供たちがやってきて、ぼくらを睨み付けてこう言った。
「お前ら、他へ行って遊びな!」
ここは元々ぼくらの遊び場だ。流れ者に明け渡す理由などない。
だけどぼくらは、手に手にピストルは持っていても、本当は気の小さい平和主義者だった。
おびえたぼくが仲間を振り返ると、何と全員の視線がぼくに集中していた。
そこでようやく思い出した。今日の主役はぼくだったのだ。
ぼくは勇気をふりしぼって相手のボスらしき少年にコルト45を突きつけ、こう言い放った。
「帰れよ!」
相手は明らかにひるんだ様子を見せた。勢いに乗ったぼくはさらに銃口で相手の腹をグイと押してもう一度言った。
「帰らないと撃つぞ!!」
と、その時、相手の少年が力まかせにその銃身を横になぎ払った。
ガシャン! 買ったばかりのコルト45は地面に叩き落され、何と銃身がぽっきりと真っ二つに折れてしまったのだ。
その後の事はよく覚えていない。
ぼくは激しく泣き叫びながら相手に食ってかかり、相手はそのあまりのヒステリーぶりに恐れをなして逃げ帰ったような気もするし、逆にぼくが泣きながら逃げ帰ったような気もする。
まあ、いずれにしろヒーローとしてのぼくが決闘に負けたのは間違いない。
その後、銃身の折れたコルト45は机の引き出しの中に悲しく眠っていたが、いつしかそれもなくなってしまった。
写真のものは、それからちょうど10年後の高校時代にたまたま立ち寄ったつぶれそうなおもちゃ屋で見つけたものだ。
店先で箱を開き、中から銃身のスラリと伸びたコルト45が現れたとき、ぼくの意識はあのデパートにタイムスリップしていた。
TEXT BY 黒沢哲哉 (2005/05「別冊漫画ゴラク」掲載の『別ゴラ万博昭和館』に加筆・訂正)
■参考資料■
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