『まぼろしの市街戦』
(1967年 イギリス・フランス合作作品)
原題/LE ROI DU COEUR
製作・監督/フィリップ・ド・ブロカ
脚本/ダニエル・ブーランジェ
撮影/ピエール・ロム
音楽/ジョルジュ・ドルリュー
出演/アラン・ベイツ、ジュヌビエーブ・ビジョルド、ジャン・クロード・ブリアリ、フランソワーズ・クリストフ
カラー ビスタビジョンサイズ 102分
第一次大戦中のフランスの小村。ドイツ軍が、侵攻してくる連合軍を撃破しようと、村の中央広場にある弾薬庫に時限装置を仕掛けた。
兵站勤務の伝令兵プランピック(ベイツ)は、フランス語ができるという理由だけで、単身、村に潜入させられ、爆破解除を命じられる。
ところが、村人はすでに避難しており、村には精神病院の患者とサーカスの動物たちだけが残っていた。
ドイツ兵に追われたプランピックは、精神病院に逃げこみ、患者たちに紛れて、自分は「ハートのキングだ!」と名乗ったことから、患者たちから、国王とあがめられてしまう。
冒頭、いきなりレジスタンスの男が射殺されるシーンから始まる、非常にブラックなコメディで、戦争という異常な状況の中に、のびのびと生きる精神病患者たちを放り出すことで、何が異常で何が正常なのかを見るものに問いかける。
当初、「弾薬庫はどこだ!!」と騒いでいるだけのプランピックが、患者から「あんたの言っていることはよくわからん。おかしいんじゃないのか」と言われたりするなど、皮肉なシーンも盛りだくさん。
弾薬庫がきれいに飾り付けられて、楽団のステージになっているというのもシニカルである。
プランピックの伝書鳩が、意味不明の電信文を届けてきたことで、上官は、プランピックが狂ったと思い、新たに3名の兵士を派遣するが、その男たちも、異常な光景を目の当たりにして、ほうほうの体で逃げ帰ってしまう。
ところで、この3人の兵士が、3人揃ってまったく同じ動きをしているのがおかしい。黒澤明監督の『椿三十郎』で、加山雄三らが扮する若侍たちが全員揃って同じ動きをするのを思い出したが、当時のフランス・ヌーベルヴァーグの映画作家たちは日本映画もよく見ていたから、ド・ブロカ監督も、もしかしたら黒澤映画を引用したのかもしれない。
残念だったのは、精神病患者たちが、みな一様に「気のいいイノセントな人たち」であり、本当の狂気が感じられなかったことだ。あえてそうしたのだとは思うが、みな、鍵のついたオリに収容されている患者たちなのだから、もっとアブナイ人もいるだろうにと思うと、少々物足りなかった。
この映画は、かつてぼくが大学生だった70年代末ごろに、池袋の文芸坐で
陽の当たらない名画特集
という企画がよく開催されていて、その中で上映されていた。しかし当時は未見で、ぼくが見たのは今回が初めて。いやー、もっと早く見ておくんだった。
監督のフィリップ・ド・ブロカは、この映画以前に、『リオの男』(1963年)や、『カトマンズの男』(1965年)など、J・P・ベルモンド主演の痛快活劇をヒットさせていたから、こんな野心的な作品を撮らせてもらえたんでしょうね。
(1999/11/05)
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