『海の若大将』 (1965年 宝塚映画作品)

製作/藤本真澄、寺本忠弘
監督/古澤憲吾
脚本/田波靖男
撮影/飯村正、梁井潤
音楽/広瀬健次郎
美術/村木忍
出演/加山雄三、星由里子、有島一郎、中真千子、飯田蝶子、田中邦衛
カラー シネマスコープサイズ 99分
 加山雄三主演の東宝「若大将」シリーズの第5作目。ぼくにとっては封切で見た2本目の若大将映画だ。併映作品は『フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン』。当時7歳のぼくにとってはもちろん怪獣映画の方がメインだったわけだけど、この『海の若大将』で完全に若大将のファンとなったぼくは、これ以後、怪獣映画が併映でなくても、必ず若大将映画にも足を運ぶようになる。
 本作は、植木等の無責任シリーズなどで知られる古澤憲吾が監督をしており、シリーズ中でも最もスピード感にあふれた傑作だ。
 ストーリーは黄金のワンパターンで、京南大学のエース・田沼雄一(加山)が、毎回あるスポーツ(今回は水泳)で勝利すると同時に、澄子(星)の愛もゲットしてしまうという明朗なドラマである。
 しかし実は「若大将」シリーズではストーリーなんてどうでもよくて、“大学生”という肩書きを免罪符として“若大将”という抽象的なキャラクターが自由奔放に遊び呆けまくる、若者の理想郷ユートピアを描いているところが最大の魅力なのだ。
 確かぼくと同世代の評論家が語っていた言葉なんだけど、「(若大将映画とは)見た当時は“自分も大学生になったらあんな楽しい生活ができるのか”と夢に見て、自分が大学生になった頃には“昔の大学生はあんなに楽しかったのか”と懐かしむ映画である」と。蓋し名言でありますね。
 大人になってから見返すと社長のドラ息子石山(通称=青大将、田中)は、思ったより悪人じゃなくて、むしろ澄ちゃんの方が、若大将に振られたと思い込んで当てつけに青大将をデートに誘ったり、それが誤解と分かると一転して青大将に交通違反までさせて競技場へ車を飛ばさせたりして、よっぽど悪人である。しかし、それすらも笑い飛ばしてしまう無邪気さがこの映画の身上なのでありましょう。この明朗さを素直に受け止められたあのころはやっぱり幸福な時代だったんですね。

 因みにぼくが初めて見た若大将映画はシリーズ第4作『ハワイの若大将』(1963)で、こちらの併映作品は、これまた東宝怪奇映画の傑作『マタンゴ』でありました。
 この『マタンゴ』も『海の若大将』も、それぞれ8月封切の夏休み映画で、共にクルーザーで遭難するというシチュエーションがあり、この2作の影響で、当時ぼくはプラモのボートでしょっちゅう遭難ごっこをやっていた記憶がある。「・・・−−−・・・」というモールス信号のSOSを覚えたのもこのころですね。

(1999/07/08)


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