『群集の歓呼』 (1932年アメリカ作品)

原題/THE CROWD ROARS
監督/ハワード・ホークス
脚本/キューベック・グラスモン、ジョン・ブライト、セットン・I・ミラー、ネビン・ブッシュ
撮影/ シド・ヒコック、ジョン・ストマー
主演/ジェームズ・ギャグニー、ジョーン・ブロンデル、エリック・リンデン
白黒 71分
 名レーサー・ジョー(ギャグニー)が故郷に凱旋し、兄に憧れる弟もまたレースの世界へと飛び込む。しかし互いの恋人をめぐる感情の行き違いからふたりは仲たがいし、そのことで荒れたエディは酒を飲んでレースに出場。事故を起こして親友を死なせてしまう。
 資料によれば、史上初の自動車レース映画なのだとか。レースシーンの描写や恋人との人間ドラマなど、前に柴又名画座で上映した『グラン・プリ』(1966)の原型のようなシーンがたくさんあって、30年以上前の映画ながら、かなりこの映画を参考にしていることがうかがえる。
 特にレーサーの恋人がヒステリックになって「観客はあなたが事故を起こすのを期待しているんだわ!」とか「優勝より、あなたが無事にレースを終えることのほうがよっぽどうれしいのに、なぜわかってくれないの!」と叫んだりするところはまったく同じ。
 また、ゲンかつぎをしていたレーサーが、たまたまいつもと違うことをやったら案の定事故が起きてしまう、しかもその直前に観客席の妻が「今日は悪い予感がするわ…」とつぶやいているっていうお約束シーン。これも確か似たようなエピソードが『グラン・プリ』にあった。
 当時のレーシングカーはまるで椅子に座ったバイクみたいなもので、体むきだしのペラペラボディだから、確かに事故れば即、死につながるのは本当だけど、それにしても本物のレーサーの恋人は、こんなにナーバスだったらやっていけないだろう。むしろ「私の彼だけは絶対不死身」と信じてるくらいじゃないとね。実際、レーサーの恋人の女性というのは、みんな自分自身がまるでレーサーのような偉そうな顔をして堂々とピットにいる人が多いんじゃないかしらん。
 ということでレースをめぐる人間模様に関しては『グラン・プリ』と同様、いろいろと注文をつけたくなってしまうんだけど、例えば“主人公が落ちぶれた”という状況を、タダ乗りした貨物列車の連結器の間から降りてくるギャグニーのほんの1ショットだけで表現して見せたりするところなどは、さすがハリウッドの職人監督ハワード・ホークスのシャープな演出を見せてくれました。救急車に乗せられたライバルレーサー同士が、「あの救急車を追い越せ!」と言ってレースが始まってしまう、なんて場面も映画的でイカシてます。

 因みに資料によると、1939年に同じワーナーブラザーズの製作で、この映画のリメイク「Indianapolis Speedway」(監督/ロイド・ベーコン、主演/パット・オブライエン、ジョン・ペイン)という映画が作られているというが、日本公開については不明。

(1999/07/06)


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