『川の流れに草は青々』(1982年台湾・香港合作作品)

原題/在那河畔青草青
    Green Green Grass of Home
監督・脚本/侯孝賢ホウ・シャオシェン
主演/鐘鎭濤ケニー・ビー江玲ジャン・リン
カラーシネマスコープサイズ 94分
 ある田舎の小学校を舞台に、新しく赴任してきた青年教師の恋やそこで暮らす子供たちの生活を、ひと夏の風景としてとらえた傑作だ。
 まず感じたのは、ここに出てくる風景が、ぼくが子供だったころの日本の風景とそっくりなことである。もしも音声が吹き替えだったらホントに日本映画と勘違いしてしまうかも。台湾の田舎に今でもこんな懐かしい風景が残っているなら、なくならないうちにぜひ一度見に行かなくちゃ!
 本来は児童教育映画として製作されたものなのか、後半に「川をきれいにしましょう」という教育的なシークェンスがNHK教育的なストレートさで割り込んでくる。しかしその部分はわずか10分ほどに過ぎず、あとは子供たちの姿が自然に、そして生き生きと描かれた宝石のような映画になっている。
 主人公は、一応、ビーが演じる新任の青年教師なんだけど、物語がすべて彼を中心に進むわけではない。カメラは時には子供の目に、時には大人の目になって、好奇心にまかせて村の中を自在に駆け回るのだ。既成の表現にとらわれないこの自由さが、登場人物たちを大らかで明るい印象に仕立てているのだろう。さらに子供たちがはじけそうなくらい元気に見えるのは、彼らが歩いているシーンというのがほとんどなくて、石段でも坂道でもとにかく走っているからだ。そういえば昔の子供はしょっちゅう走ってましたよね。
 監督のシャオシェンは『坊やの人形』(1982)で台湾ニューウエーブの旗手と呼ばれて注目され、その後『風櫃フンクイの少年』(1983)、『悲情城市』(1989)などで世界的な評価を得た人だ。彼のフィルモグラフィにはこの映画と同じく子供を主人公にした『冬冬トントンの夏休み』(1984)という作品もあって、これも真夏の田舎町を舞台にハイキーな映像で少年の心模様を活写した名作でありました。

(1999/05/30)


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