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『もっとしなやかに もっとしたたかに』 (1979年 日活作品)

監督/藤田敏八
製作/三浦朗
企画/進藤貴美男
脚本/小林竜雄
撮影/前田米造
美術/徳田博
編集/井上治
音楽/篠崎コウヘイ
出演/森下愛子、奥田英二、高沢順子、風間杜夫、真木洋子、加藤嘉、赤座美代子
カラー シネマスコープサイズ 98分
 森下愛子が最も若々しく輝いていたころの代表的な作品だ。
 彼女の出演作は、この前年に公開された『サード』を、過去にこの柴又名画座でも上映している。
 その『サード』も、彼女の魅力が全編に光る映画だったわけだけど、この作品は、さらに彼女の魅力こそが全てと言っても過言ではない作品だ。
 いやー、森下愛子ファンとしては、毎度ヒイキの引き倒しになっちゃうけど、本当なんだから仕方がない(笑)。
 女房に逃げられ、売れないカメラマンの道を捨て、子供を姉に預けて、今は運送屋に勤める男・勇一(奥田)。そこにひょんなことから知り合った家出少女・彩子(森下)が転がり込んでくる。ところが彼女を泊めた翌日、目覚めて見ると勇一の大切なカメラが盗まれていた。
 生きるのが下手で人間関係もうまく作れない人間ばかりの中で、彩子だけがタイトルどおりしなやかに、そしてしたたかに生きていく、これはそんな映画である。いや、むしろこのタイトルからすると、彩子がそんなダメ人間たちを「もっとしなやかに もっとしたたかに」と励ましている映画なのかも知れない。
 ついでに言うと、今では二枚目俳優としてのイメージが定着している奥田英二と風間杜夫が、それぞれに違ったタイプのダメ男を演じているのも見所だ。
 しかし、そんな彼女も本当は決してタフな少女ではない。時折フッと見せる寂しさに、心の奥底に秘めた孤独を垣間見せるときがある。藤田敏八はそんな若者の孤独を描かせたらぴか一の監督だ。そして森下愛子もまたそんな監督の演出意図を見事に理解し、堂々と演じてのけるあたりのあ・うんの呼吸は絶妙! 彼女が、まだ知り合ったばかりの勇一の父の死に立ち合い、突然ベッドに突っ伏して泣くシーンは、そんな彼女の孤独を象徴した名場面である。
 この映画は、この前年に城戸賞に準入賞した小林竜雄の脚本を藤田敏八が監督した作品だ。城戸賞というのは松竹が主催する脚本賞で、この時期、城戸賞からは多くの優れた脚本家・映画監督たちがデビューしていた。大森一樹の『オレンジロード急行』(1977年入賞、1978年映画化)、中岡京平の『帰らざる日々』(原題「夏の栄光」1977年入選、1978年映画化)など。ぼくにとってはどれも思い出深い作品ばかりで、こうした人々の活躍に刺激され、恥ずかしながら「ぼくもいつかは城戸賞を狙いたい」なんて思っていたのだった。いや、別に過去形にしなくても、今から挑戦してもいいんだけどね。
 因みに、先ごろ自殺した野沢尚も、1983年23歳の時に『V・マドンナ大戦争』(1985年映画化)で城戸賞に準入賞し脚本家デビューしている。

(2004/08/08)

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