Top 柴又名画座 No.230 Back
『スケアクロウ』 (1973年 アメリカ作品)


©Warner Bros.
原題/SCARECROW
監督/ジェリー・シャッツバーグ
製作/ロバート・M・シャーマン
脚本/ギャリー・マイケル・ホワイト
撮影/ヴィルモス・ジグモンド
音楽/フレッド・マイロー
出演/ジーン・ハックマン、アル・パチーノ、ドロシー・トリスタン、アイリーン・ブレナン、リチャード・リンチ、アン・ウェッジワース
カラー シネマスコープサイズ 113分
※ 今回テキストにしたのはTVサイズのトリミング版です。
 刑務所から出所したばかりの中年男マックス(ジーン)は、ヒッチハイクをしようと道路へ出たところで、青年ライオン(アル)と出会う。ライオンは5年前に身重の妻を捨てて家出をしたが、今ではそれを後悔しており、デトロイトの妻の元へ、まだ男か女かも分からない子供を見るために帰る途中だった。マックスはそんなライオンにピッツバーグでカーウオッシュの店を開く夢を語り、一緒に店をやらないかと誘う。
 我の強い二人が、時に衝突を繰り返しながらも、次第に友情を深めていく様を描いたロード・ムービーの傑作だ。
 70年代にアメリカン・ニューシネマと呼ばれた作品群の中の1本で、『イージー・ライダー』(1969)と並んでぼくの大好きな映画でもある。
 ぼくがこの映画を初めて見たのはまだ高校生のころだった。ぼく自身が、自分は将来どんな大人になるのか、未来がまったく見えていなかったころに、道を求めてさすらう若者像をリアルに描いたアメリカン・ニューシネマの数々は、どれもぼくの心に深い印象を残した。
 地平線の彼方を目指そう、そこにあるのは決して幸福や自由ではないかも知れない。だけど今よりはましだ。『スケアクロウ』のマックスや『イージー・ライダー』のワイアットは、ぼくにそんなメッセージを残して旅立った。
 今回、実に久しぶりの再見だったわけだが、今回、新たに感じたのは、二人の友情の距離感が絶妙なことだ。道で出会っただけの見ず知らずの男に最初に敵意を示すのも、心を許すのもマックスの方だった。
 そんなマックスにライオンは尋ねる。「なぜ俺を(相棒に)選んだ?」 それに対してマックスはこう答える。「最後のマッチをくれたし、笑わせてくれた」 と。
 ふたりが最初に言葉を交わしたのは、ライターのオイルが切れたマックスに、ライオンが最後に残った1本のマッチを分けてくれたことがきっかけだったのだ。二人が道路を挟んで向かい合って立ち、お互いに相手より先に車を止めてヒッチハイクを成功させようとにらみ合っていたのが、1本のマッチをきっかけに道路を渡り、肩を寄せ合って4本の手で風をよけながら葉巻に火を付ける。こんな些細なことから始まった男の友情……うーん、何ともしびれるシーンじゃありませんか。
 そう、ディティールはすっかり忘れていたけれど、ぼくはこんなラフな男たちのかっこよさにほれていたのだった。
 ところで今回は、残念ながらテレビ放送を録画したトリミング版での鑑賞だったけど、実はこの作品、日本で過去に発売されたビデオソフトも現在発売中のDVDもトリミング版だけなんですよね。荒涼とした地平線の広がりを描いたシーンの美しさとか、二人の心の距離感がスクリーン上での二人の立ち位置に象徴された構図とか、まさしくパナビジョンであることに大きな意味がある映画なだけに、これはとても残念でしかたがない。この映画の素晴らしさをより多くの人に知ってもらうためにも、早くフルサイズ版を出してくれ!!

(2004/08/05)


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