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『野獣死すべし』 (1959年 東宝)

監督/須川栄三
原作/大藪春彦
脚本/白坂依志夫
撮影/小泉福造
音楽/黛敏郎
出演/仲代達矢、小泉博、団令子、佐藤允、白川由美、東野英治郎
モノクロ シネマスコープサイズ 96分
 大藪春彦のデビュー作であるハードボイルド小説の、最初の映画化である。
 原作を読んだのは学生時代のことでディティールはほとんど忘れてしまっているが、その当時、公開されて印象が強かった松田優作の演じる伊達邦彦(『野獣死すべし』(監督:村川透、1980年東映=角川春樹事務所)よりも、仲代の方が原作のイメージに近いような気がする。
 伊達邦彦(仲代)は、昼間は平凡な英文科の大学生、しかし彼には凶悪な殺人者というもうひとつの顔があった。伊達は周囲の人々を利用しながら、大学の学費強奪を計画する。
 当時の仲代は、知的な殺人者という役どころにピッタリのイメージで、ギョロッとした鋭い目線が背筋の寒くなるようないい味を出している。ただ、その目線が強すぎて、平凡な大学生を装っている場面でも体中から怪しさがあふれているのは仕方ないところか。
 シナリオは、全体的に、原作を消化しようとしてエピソードがやたらと詰め込まれており、性急な印象がある。そしてその分、荒さも目立っていた。
 例えば伊達が夜の港で人を殺しその車を海に突き落とすシーンがあるが、その車を海に落とした後で、伊達が岸壁に立って哄笑している。映画的には絵になるシーンかも知れないが、どこに目撃者がいるのかも分からない場所なわけだし、伊達邦彦を演出するならこれはNGだと思う。
 ただ、コントラストの強いモノクローム画面がハードボイルドな緊張感をうまく演出しており、それによって救われていた部分もある。これがカラー作品だったらかなり物語の粗さが目立ってしまったに違いない。
 物語の中盤からは、伊達とそれを追う刑事(小泉)との駆け引き勝負が見どころになってくるが、その勝敗がどうなったのかがハッキリと分からないままに終わるエンディングは、当時としては斬新な演出だったのではないだろうか。

(2001/08/27)


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