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『メトロポリス』 (2001年 メトロポリス製作委員会)

企画/りんたろう、丸山正雄、渡邊繁
製作/角田良平、宗方謙、平沼久典、塩原徹、阿部忠道、永瀬文男、松谷孝征、寺島明彦
監督/りんたろう
原作/手塚治虫
脚本/大友克洋
キャラクターデザイン・総作画監督/名倉靖博
美術監督・CGアートディレクター/平田秀一
音楽/本多俊之
声の出演/井元由香、小林桂、岡田浩暉、石田太郎、富田耕生
カラー ビスタビジョンサイズ 107分
 手塚治虫が1949年に発表した書き下ろし単行本『メトロポリス』を原作として、50年ぶりに映像化された、企画からして画期的なアニメーション作品である。
 いつかどこかの未来。巨大都市国家メトロポリスでは、街の実力者・レッド公(石田)が、超高層ビル「ジグラット」を完成させ、ますます権力を強めていた。
 レッド公は、狂気の科学者ロートン博士(滝口順平)に命じ、地下都市の秘密研究所で、死んだ娘の面影に似せたロボット・ティマ(井元)を造らせていた。
 しかし、レッド公に育てられた孤児のロックは、レッド公の企みに気づき、ティマを製造する機械装置を壊してしまう。
 一方、国際指名手配されているロートン博士を追って日本からやってきた私立探偵のヒゲオヤジ(富田)と甥のケンイチ(小林)も、そうした陰謀と抗争の渦の中に巻き込まれて行く。
 絵柄はレトロチックな手塚マンガの旧作タッチを意識しているが、一方でストーリーに関しては、手塚治虫の原作マンガからは、かなり離れていると聞いていたので、逐一、比較はしないで、全く新しい作品として見ようと決めていた。
 で、実際に見終えた感想としては、確かに手塚ワールド的な雰囲気は持っているものの、やはりスピリットの部分において、手塚ワールドとは明らかに別の世界が展開していた。
 ひとことで言うと、これはロボットであるティマと人間のケンイチの愛の物語になっているのだ……と思う。
 語尾が煮えきらないのは、この映画の中で、テーマらしきものがほとんど語られていないからなのだ。
 原作マンガ『メトロポリス』には実に多くのメッセージが含まれている。文明社会に対する批判、ロボットと人間に置き換えた人種差別批判、そして当時世の中に多くいた戦災孤児たちへの励ましのメッセージなどなど……。確かに当時とは時代が違うため、それらをそのままこの映画に盛り込むことが決していいとは言えないし、無理に現代に置き換えても陳腐になってしまうだけなので、思いきって割愛したのはむしろ正しい選択だったと言える。
 しかし、それだけに、ティマとケンイチの心の交流に関しては、もう少していねいに描き、そこから浮き上がってくるメッセージをハッキリと聞かせて欲しかったと思うのだ。
 そうすることで、原作ではスイッチひとつで男にも女にもなれるロボットだったミッチィを、少女のロボット・ティマにした意味もより際立ったのではないだろうか。
 キャラクターデザインに関しては、レトロ調にしたのは良かったように思う。案外、今風のアニメーションと並べても違和感ないのではないだろうか。
 地上の都市空間や、猥雑な地下世界の風景などの美術も素晴らしい。残念だったのは、背景でギリギリと意味ありげに回転している歯車が、実際にどんな装置のどんな部分なのかがまったく分からないこと。これは一見、どうでもいいことのように思えるかもしれないが、他の美術に関しては、階段のつながり方やドアの形状に至るまで、きちんとソレっぽい味付けがなされているだけに、無意味に動き続ける歯車だけが、せっかく造り込んだこの世界全体をウソ臭くスポイルしてしまっているのである。
 それからもうひとつ残念だったのは、ティマの衣裳。スカートでは変かも知れないが、せっかく女の子にしたんだから、あのダブダブのズボンだけは何とかして欲しかった。
 また名前も、原作マンガのミッチイからティマに変えているが、ミッチイで何ら差し支えなかったように思うのだが。
 この名前を変えた理由について、脚本を担当した大友克洋は、プログラムのインタビューの中でこう語っている。
“原作の中で「ミッチイ」というキャラクターの名前だけが、何かその辺にあるニックネームみたいな感覚がして、僕には正直ピンとこなかったんです。それで自分としてはこのままではちょっとイメージ的に古いかなと思ったんですね。それで「ティマ」という、これもメソポタミア文明のお姫さまの名前だったと思うんですけど、そこから取ってきたんです”
 大友克洋は、手塚治虫の名作のシナリオ化ということで、いろいろとかなり苦しんだようなので、ミッチイの名前を変えたことで話が進んだならそれもいいとは思うけど、ぼくは映画を見ながらも、ずっとティマ=ミッチイと、あえて意識しながら頭の中で置き換えて見てました(笑)。
 比較しないと言いながら、完全に比較ばっかりの文章になってしまった。実際はまだまだ比較したい部分もあるんだけど、それを言い出したらキリがないからやめといて、この映像世界に身を置いているだけで気持ちがよかったことは確かです。

(2001/06/28)


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