Top
柴又名画座
No.165
Back
『男の顔は履歴書』
(1966年 松竹)
製作/升本喜年
監督/加藤泰
脚本/星川清司、加藤泰
撮影/高羽哲夫
美術/梅田千代夫
音楽/林 光
出演/安藤昇、伊丹一三、中原早苗、中谷一郎、真理明美、沢田寅彦、嵐寛寿郎
カラー ビスタビジョンサイズ 89分
最初のカットは、主役の安藤昇の左頬にザックリとえぐられた本物の30針の傷跡のアップ。ヤクザの親分から俳優になったという異色の経歴を持つ安藤昇の個性を最前面に出した強烈なファーストカットであり、この映画のタイトルをズバリ表現した印象的なシーンである。
再開発によって間もなく立ち退く予定の小さな雨宮病院。ある日、その雨宮(安藤)の元へ交通事故の男が運び込まれてきた。男は本名を崔、日本名を柴田という韓国人だった。雨宮と柴田は、かつて沖縄で共に戦った上官と部下だったのだ。
雨宮は、柴田の顔を見るなり終戦直後のある時代を思い出す。終戦直後の混乱が続いていた昭和23年。中国大陸の人々によって組織された暴力団・九天同盟が、雨宮の所有する土地に建つマーケット(闇市)の乗っ取りを企んでいた。柴田はその九天同盟に所属する人間だったのである。
当時雨宮は、九天同盟との抗争が激化する中で、何とか平和的解決を計ろうとしていた。しかし雨宮の弟(伊丹)は、単身、九天同盟に殴り込みをかけ、捕えられてしまう。そして九天同盟は、雨宮に、弟と引き替えにマーケットの権利書を渡すよう迫ったのだった!!
映画は、現在と、終戦直後、そして戦時中という3つの時代を交錯させて、戦後日本の混乱した状況の中で、戦争の傷を隠しながら生きる男の半生を、骨太の演出で描いている。
とにかく、最初から最後まで緊張感が持続する堂々とした演出の妙は圧巻! 画面の手前と奥に深く取ったクロースアップを効果的に使った構図が多用されているのも、この作品のテーマにぴったりであった。
そういえば、昔の日本映画にはどんなマイナーな作品にでも、こんな熱気があったのだ。日本映画低調の今日、思い起こすべきなのは、かつての日本映画に確かに存在したこの熱気なのではないだろうか。
隠居したヤクザの親分として出演している嵐寛寿郎など、脇役も絶妙。いい役者、いいスタッフが結集して完成した。これはそんな傑作だ。
伊丹十三(当時は伊丹一三)が、主人公雨宮の弟役で、後のディレッタント風に枯れてしまったインテリイメージからは想像もできない、野暮な熱血青年として登場するのも面白い。
資料によれば、この作品の後、同じ加藤泰監督、安藤昇主演で『阿片台地 地獄部隊突撃せよ』(1966)、『懲役十八年』(1967)という、戦中・戦後を舞台とした作品が作られ、この3作をまとめて、戦中世代3部作と言うのだという。
残念ながら他の2本は未見だが、『阿片台地 地獄部隊突撃せよ』などは、あらすじを読むとデズモンド・バグリィの冒険小説「高い砦」を思い起こさせる胸踊る冒険活劇らしく、機会があればぜひ見てみたい作品だ。
(2001/06/20)
[Top]
|
[Back]