Top 柴又名画座 No.159 Back
『プライベート・ライアン』 (1998年 アメリカ作品)

原題/SAVING PRIVATE RYAN
監督/スティーヴン・スピルバーグ
製作/スティーヴン・スピルバーグ、イアン・ブライス、マーク・ゴードン、ゲイリー・レヴィンソン
脚本/ロバート・ロダット、フランク・ダラボン
撮影/ヤヌス・カミンスキー
音楽/ジョン・ウィリアムズ
出演/トム・ハンクス、トム・サイズモア、エドワード・バーンズ、バリー・ペッパー、アダム・ゴールドバーグ、ヴィン・ディーゼル
カラー ビスタビジョンサイズ 170分
 1944年6月、第2次大戦下のフランス。ノルマンディー上陸作戦の直後に、ジョン・ミラー大尉(ハンクス)は、戦場からたったひとりの二等兵を救出せよ、という命令を受ける。四人兄弟の末っ子であるそのジェームズ・ライアン二等兵は、すでに3人の兄を戦争で失っていた。軍上層部は、最後に残ったジェームズを母親の元へ帰還させようとしたのである。
 大尉は7人の部下を伴って、見たこともない青年の救出のため、敵地へと当てのない決死行に向かう。
 この映画でまず驚かされるのは、戦場のリアリティだ。ドキュメンタリー的に突き放すのでもなく、ドラマ的に盛り上げるのでもないシリアスな視線が、実際の戦場の恐怖とそれが日常化してしまった異常な世界を浮き彫りにしていく。
 故スタンリー・キューブリック監督の『フルメタル・ジャケット』(1987)を見たとき、その静かな戦場の描写に、初めて映画の中で本当の戦場の空気を感じた気がしたのを思い出したが、映画における戦場描写の技術としては、そこからさらに数倍進化していると言えるだろう。
 さらに、その群集シーンの中で描かれる個々の人間の行動の描写もまた見事だ。画面に無数に登場する兵士たちそれぞれが生きた人間として描かれている。これには驚かされた。いったいどうやって個々の俳優たちの演技を指導したのだろうか。ぼくが思うには、こういうシーンでは、監督の演出補佐をする複数の人間がいて、それぞれのエキストラたちの動きを細かく指示しているのだとは思うが、それにしても実際の戦場を見てきた人間でないと描けないと思われる描写も細部にあって、さすがにスピルバーグはいいスタッフを揃えているなとも思ってしまう。
 さて、そして本筋であるライアン救出作戦の顛末についてだが、前半で、無名の二等兵を救出するという使命に疑問を感じながら、8人の人間関係に摩擦が生じるシーンなどが描かれているあたりは、あらすじを聞いた時点で、ある意味見えていた展開だった。けれども、この映画が人間ドラマとして新しいのは、彼らが戦場でライアン二等兵と出会ってからである。ここからの展開は全く予想しなかったもので、それによって、戦争の空しさと生きることの価値がじんわりとしみる。この後半1時間の展開は、現代に描く戦争映画のスタンダードを示したと言ってもいいだろう。
 

(2001/04/14)


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