1972年、ぼくが中学2年の時に放送された、NHK少年ドラマシリーズの第1弾『タイム・トラベラー』がDVDになって発売された。VTRで製作されたスタジオドラマのこの作品は、同年とその翌年の2度、再放送がなされただけで、マスターテープが消去されてしまったため、それ以後は幻の名作と言われていた。それが今回、最終回だけではあるが、個人所有のビデオをデジタル処理して復元、DVD化されたのである。
ぼくは当時、この放送を見て大きな衝撃と共感を覚えた。全編にあふれるSFマインド、自分と同じ世代の感覚を見事にとらえた青春ドラマとしての完成度、そして何より出演者たちの瑞々しい演技にぼくは魅せられた。
再放送の時には、テレビ画面をカメラで撮影し、全話をカセットテープに録音した。
その後、1985年ごろだろうか、NHKの日曜の早朝番組で、個人所有のビデオテープを元に、最終回が再放送されたことがあったというが、残念ながら、ぼくはその放送を見逃がした。また一昨年、NHKのスタジオパークで再び最終回の一部分だけが放送されたことがあり、こちらはしっかり録画したのだが、いかんせんわずか数分のシーンのみだったため、かえってフラストレーションがたまっただけだった。
そして、完全な形でこの最終回を見たのは、1973年の再放送から実に約28年ぶりということになる。これまで自分で録音したカセットテープで音声だけは繰り返し聞いていたからか、構図からカット割りまで、ほぼ正確に記憶していたのには自分でも驚いた。
物語は……、ある日の午後、理科室の掃除当番だった中学三年生の芳山和子(島田)が、理科準備室を掃除中に、フラスコに入った薬品の匂いをかいで失神してしまう。そして彼女は、それをきっかけとして時間を跳躍する能力を身につけたタイム・トラベラーとなってしまったのだ。実はそのフラスコには、700年後の未来からやってきたケン・ソゴル(木下)という未来人の少年が、和子の同級生・深町一夫になりすまし、密かに作っていたタイムトラベルの薬品が入っていたのだ。それをきっかけとして、和子とケン・ソゴルをめぐるはかなくも不思議なドラマが始まる。
低予算のスタジオドラマながら、毎回、物語の最初と最後に城達也のサスペンスフルな語りが入り、まるで「ヒッチコック劇場」や、「ミステリーゾーン」を思わせる良質のSF作品となっている。
特に、この作品を歯切れのよい生き生きとした作品に仕上げている功績は、石山透の脚本の力によるところが大きいだろう。ごく短い短編である筒井康隆の原作小説をSF青春ドラマとして見事にふくらませていて、後に同じ原作を元にラブストーリーとして作り上げた大林宣彦監督の劇場映画『時をかける少女』とくらべても、決して見劣りするものではない。むしろ、SFマインドという点では、この『タイム・トラベラー』に軍配があると言っても過言ではないだろう。
哀愁あふれるテーマ曲、キャスティング、セリフ、どれを取っても素晴らしいの一言に尽きる。そしてそれは時代を経ても色褪せるものではなかったのが何よりうれしい。
ということで、この作品は、ぼくにとっては、まるで昨日放送されたばかりのように記憶が鮮明だったため、今回、再見してみて新たに発見した部分というのがまるでなかったのが残念だった。第1話から全話通して見られたらまた新たな感想があるのかも知れないが……。むしろ、このDVDで初めてこの作品を見た人の感想がぜひ聞いてみたいところですね。
因みに、このDVDには、『タイム・トラベラー』全話の音声トラックと、後に放送された『続タイム・トラベラー』の全話の音声トラックも収録されている。