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柴又名画座
No.134
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『破戒』
(1962年 大映京都作品)
製作/永田雅一
監督/
市川崑
原作/島崎藤村
脚本/和田夏十
撮影/宮川一夫
出演/市川雷蔵、藤村志保、三國連太郎、岸田今日子、中村雁治郎、船越英二
モノクロ シネマスコープサイズ 118分
島崎藤村の被差別部落問題を扱った同名の小説を、市川崑が映画化したものだ。
明治20年代末、部落出身者であることを隠して小学校の教師をしている牛松(市川)が、部落に対する差別の視線の中で、自分自身の存在意義と人間としての尊厳の問題に悩み、それにひとつの決断をつけるまでを描いている。
小説を読んだのは高校時代のことで、もうディティールも結末も忘れてしまっているが、今回、映画を見終えた印象は、小説を読み終えたときの読後感とはずいぶんと違ったものだったような気がする。
牛松の絶望で終わっていた(と記憶している)小説とは違い、この映画ではわずかながらでも希望の光が見えている。
マスメディアで仕事をしていると、差別問題というと、普通以上に抑制する方向に過敏に反応してしまいがちだが、それを正面からとらえ、偽善的でも欺瞞的でもなく、またプロパガンダにもならずに、これだけ見事な人間ドラマに仕上げたのは、脚本の和田夏十の力量と、それを巧みな構成力で映像化した市川崑の演出力によるものだろう。
また、市川雷蔵のナイーブでいて芯の強い演技は、主人公の主張と苦悩を見事に表現していた。
牛松が憧れる部落出身の思想家を三國連太郎が演じ、牛松の姿が、次第にその思想家の姿とダブるように見えてくるあたりの、市川の巧みな演技にも注目である。
(2000/05/31)
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