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『手錠のまゝまの脱獄』 (1958年 アメリカ作品)

原題/THE DEFIANT ONES
製作・監督/スタンリー・クレイマー
脚本/ネイザン・E・ダグラス、ハロルド・ジェーコブ・スミス
撮影/サム・リービット
美術/フェルナンド・カレア、ジョー・キッシュ
音楽/アーネスト・ゴールド
出演/トニー・カーチス、シドニー・ポワチエ、カラ・ウィリアムズ、シオダー・ビゲル
白黒 スタンダードサイズ 97分
 20年以上前にテレビで見て以来、ひさびさの再見である。手錠でつながれた白人と黒人のふたりの犯罪者が、警察の護送車の事故に乗じて脱獄する。
 ふたりは互いに人種差別や偏見の言葉を口にしながら、警察の追っ手を逃れてひたすら逃げる。そして、最初は偏見と差別に満ちていたふたりの間には、次第に信頼関係が生まれてゆくのである。
 互いに憎み合うふたりが手錠につながれたまま逃避行をおこなうという、卓抜した発想は、これ以後、さまざまな作品に引用され続けている。
 日本映画で有名なのは、ご存知、高倉健主演の映画『網走番外地』(1965年東映東京作品)だろう。手錠を切るためにふたりがいろいろな試みをするというのは本家と同じだけど、『網走番外地』では何とふたりが鉄道線路に寝転んで、列車の通過で手錠を切ろうとするというシーンが独創的で迫力ある見せ場となっていた。
 また赤塚不二夫のまんが『おそ松くん』にも、イヤミとチビ太が手錠でつながれた脱獄犯に扮するというパロディ作品がありました。
 さらに、つい先日、再放送でアメリカの昔のテレビドラマ『ラット・パトロール』を見ていたら、これでも、主人公のトロイ軍曹が、ドイツ兵と手錠でつながれたまま逃げるというエピソードをやってました。
 しかし今回、この映画をひさびさに見て感じたのは、これは手錠でつながれたふたりが白人と黒人であるということに大きな意味があったのだということを改めて感じた。
 後にこの映画のシチュエーションを引用した多くの作品ではほとんど触れられていないが、人種差別こそがこの映画の最大のテーマだったのである。
 ふたりが逃げこんだ、白人の未亡人と幼い息子が住む家で、その未亡人がトニー・カーチスだけに食事やコーヒーをふるまったりするシーンなど、そのさりげなさがすごい。おまけに、手錠が切れてからは、その未亡人はトニー・カーチスだけを助けようとするのである。
 追っ手の警察官や地元のハンターたちも、犯罪者に対する偏見に満ち、「ふたりを殺せ!」といきりたっている。
 そんな中でただひとり、ふたりをなんとか傷つけずに捕らえようと突っ張り、努力する保安官の姿には実に救われるものがある。決して救いようのない状況を描いていても、どこかに必ずホッとするような人物を配置する。ハリウッド映画の、こうした性善説にのっとったスタンスは娯楽映画として実に重要ですね。

(2000/05/03)


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