Top 柴又名画座 No.125 Back
『海と毒薬』 (1986年 「海と毒薬」製作委員会作品)

製作/滝島恵一郎
監督・脚本/熊井啓
原作/遠藤周作
撮影/栃沢正夫
音楽/松村禎三
出演/奥田瑛二、渡辺謙、岡田真澄、成田三樹夫、西田健、神山繁、岸田今日子
モノクロ ビスタビジョンサイズ 123分
 物語は、太平洋戦争終戦直後、米軍に取り調べられる若い医学生のシーンから始まる。彼は戦争中に、捕虜となった米兵の生体解剖に立ち合ったとして取り調べを受けているのだ。そして彼の口から、次第に信じられないような生体解剖の事実が明らかになっていく。戦争中に実際にあった実話を元にした、遠藤周作の同題の小説を、社会派の熊井啓が監督して映画化したものだ。
 モノクロで撮られたのは、手術シーンのグロテスクさを軽減するためだろう。とにかく手術シーンは内臓までくっきりと見せるリアリズムで撮られている。
 前半は、生体解剖とは直接関係ない、戦時中の病院の物資不足や満足な医療が施せない状況などが描かれる。物語がテーマに触れてくるのは上映時間を半分以上過ぎてからだ。
 そうしたじっくりと描くストーリー構成とドキュメンタリータッチで淡々と進行する画面は、かえってテーマとなる主張を伝わりにくくしてしまったのではないだろうか。こういうテーマの作品は、むしろ過剰な演出をした方が主題が伝わりやすいと思う。
 人物の個性を際立たせる熊井啓の演出はさすがで、出演する人間がかなり多いにもかかわらず、それぞれがくっきりとした個性を見せている。気弱だが医者としての野心を持っている医学生(岡田)、病院のしきたりを強固に守ろうとする看護婦長(岸田)、病院の都合で退職させられ、生体解剖のためにまた呼び戻される看護婦(根岸季江)などが特にいい味を出していた。
 考証をかなりしっかりとやっているのだろう。当時の時代を感じさせる病院や手術の風景も興味深かった。
 生体解剖されつつある米兵が、手術中に苦しそうに咳き込んだとき、看護婦が「モルヒネを吸入させましょうか?」と医師に尋ねると、医師が「いらん! これは患者じゃない!」と言いきるところが迫力だった。

(2000/05/02)


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