第1章「鋼鉄の都市」
21世紀は、日本にとって試練の幕開けとなった。
いくつもの不幸な事故や災害が立て続けに日本を襲ったのだ。
最初の不幸は西暦200X年の夏に起こった原発事故である。
F県の海沿いにあるM原子力発電所で大規模な放射能漏れ事故が発生し、原発から半径130キロメートル以内の地域が期限未定で立入禁止区域に指定されたのだ。
また、同じ年の秋に、20世紀の末から世界中で頻発していた異常気象が、集中して日本を襲った。
九州、四国、中国地方全域では台風と五週間にわたる長雨によって、崖崩れや河川の氾濫が起こり、多数の被害が出た。
そして同じころ、逆に東北地方は記録的な旱魃に見舞われていた。M県、F県、A県では3ヵ月間一滴も雨が降らず、県内全域で1日20時間もの給水制限が行われた。本来なら実りの秋を迎えているはずの田畑には、枯死した作物が累々と折り重なって無惨な姿をさらしていた。
流通は完全に麻痺し、物不足から買い占めや売り惜しみが横行。それにつれて各地で窃盗や強盗などの犯罪も多発していた。
東京や大阪などの大都市には、全国から家や職を失った人々がすがるように集り、東京周辺の人口は一気に2.5倍にもふくれあがった。
そして冬。とどめの一撃が、人であふれかえったその東京を直撃した──。