『催眠』 (1999年 東宝・TBS作品)

製作/柴田徹、原田俊明
監督/落合正幸
原作/松岡圭祐
脚本/落合正幸、福田靖
主演/稲垣吾郎、菅野美穂、宇津井健、升毅、渡辺由紀
カラー ビスタビジョンサイズ ?分
 東京のあちこちで原因不明の自殺が相次ぐ。それらの死に共通するのは自殺したものが死の直前に口走った「緑の猿が来る…」という言葉だけ。
 心理カウンセラーの嵯峨(稲垣)や刑事の櫻井(宇津井)は、事件の謎を追っていくうちに、多重人格症の女性・入絵由香(菅野)と出会う。
 冒頭場面は短いショットの連続で、複数のシーンがカットバックで畳みかけるように展開するのだが、映像スタイルに凝りすぎていていささか唐突な感じがあり、作品世界に入っていくのにやや苦労した。
 しかし、間もなく物語の全容が見えてきたあたりから映像もストーリーもがぜんドラマチックになってくる。謎の提示とその解明のテンポも良く、サスペンスとしてもスリラーとしても上出来だ。いくつかのシチュエーションで、ヒッチコックスリラーの名作(複数)をベースにしたような部分があったのにも思わずニヤリ。落合監督は日本のブライアン・デ・パルマでしょうか。
 ただ、ツーショットを基本としたアップぎみのフレーミングや、カットを短く切ってアクションでつなぐ編集がモロにテレビ的で、さらにベタッと当てた平板なライティングも含めて、どうしてもこれが本編(劇場用映画)であるという印象が薄い。プログラムの中で宇津井健がインタビューに答えて 「今回の撮影は映画全盛時代に勝るとも劣らないとても丁寧な撮り方でした」 などと感激して語っているので、現場の雰囲気は映画的なものだったようなのだが…。
 主役の稲垣吾郎は、クールな顔だちとスラッ伸びた背筋、そしてナイーブな線の細さも含めて主役たる魅力を充分に持っている。セリフ回しも同じ世代の俳優の中では抜群にいい。しかしいかんせん表情に乏しいのが惜しいよねー。これからの成長に期待したいです。
 そして今回のキャストで最も光っていたのが宇津井健だ。1931年10月生まれの宇津井は現在66歳。その宇津井が、まるであの『ザ・ガードマン』のころのようにバイタリティあふれる刑事役を演じている。宇津井は前出したプログラムのインタビューで 「監督のイメージで、いわゆる枯れた感じを排して、エネルギッシュなキャラクターにしました。実年齢よりも十歳近く若返るという役作りなんです」 と語っているので、まさに監督の狙い通りだったようである。ショーン・コネリーが、52歳のときに『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(1983)で12年ぶりにジェームズ・ボンドを演じたときには息切れしちゃってツラそうだったけど、日本の60年代ヒーロー、ザ・ガードマンの高倉キャップは60代半ばを過ぎても少しも老いを感じさせず、いまだにヒーローのままでした。

(1999/06/23)


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