『大誘拐
RAINBOW KIDS
』
(1991年 「大誘拐」製作委員会作品)
製作/岡本よね子、田中義巳、安藤甫
監督・脚本/
岡本喜八
原作/天藤 真
主演/風間トオル、内田勝康、西川弘志、北林谷栄、緒形拳、神山繁、水野久美、岸部一徳
カラー ビスタビジョンサイズ 120分
雨、雷、風と名乗る3人組の青年が大地主の老女を誘拐する。ところが3人は次第に老婆に言いくるめられ、老女の立てた計画に従うことになる。
コメディタッチの軽妙な演出はそれなりに楽しめるが、前半はちょっとふざけ過ぎの感じで残念。風間トオルら3人がかなり間抜けに見えてしまい、せっかくの後半の畳みかけるような緻密な設定を損なっている。しかし恐らく岡本監督はそんなこと充分承知していて、それでもあえてこうしちゃったんでしょう。ぼくが解釈する岡本演出というのは、どうもそんなところがある。「あーあ、また悪ノリしちゃって…このあとどうするんだい」みたいな(笑)。
蛇足的表現といえば、風間演じる誘拐犯が少年時代の回想をする場面が、突然鉛筆描きのまんがで説明される、この前後関係からまったく浮きまくったクドい表現も岡本演出らしくてナイス。例えば1975年にATGで撮った『
吶喊
(
とっかん
)
』では、「まるでトコロテンみたいに押し出されて昇進する」というセリフに重ねて、わざわざトコロテンが押し出されるカットが挿入される。このクドさ、これがいーんです。1924年生まれの岡本喜八がこの映画を撮ったときの年齢は66歳。岡本演出いまだ健在といったところです。
それから、3人組を牛耳りはじめた老女が「あんたたち“虹の童子”と名乗ったらどうだい」と言ったセリフが、サブタイトルの“RAINBOW KIDS”になっているのだが、この呼び名が出てくるシーンも唐突でちょっと作り過ぎ。いきなり“虹の童子”と言われてもねぇ…。
主役の3人組は、表情も硬くて動きも鈍くてイマイチなんだけど、脇をかためているのが名優揃いなので充分に見応えのあるドラマになっている。
中でも特に、北林谷栄のカクシャクとした演技は見事!! この北林谷栄という人はまったく年齢不詳な女優さんで、初めてその名を意識したのは大学時代のこと。名画座で見た今井正監督の『キクとイサム』(1959)で北林がヨボヨボの老婆を演じているのを見て「いい女優さんだなぁ」と思ったのが最初である。ところがその直後に封切られた野村芳太郎監督の『事件』(1978)を見てたまげてしまった。何とエプロンをつけた中年女性を演じているのだ。さすがに顔のシワはメイクで隠していたが、この女性がそれより20年も前に今にも死にそうなお婆さんを演じていた女性と同一人物とはとても思えなかった。さらにその後も『となりのトトロ』(1988)のおばあちゃんの声などコンスタントに仕事を続け、この『大誘拐』である。近況を知らないが、いつまでも活躍してほしい女優さんである。
(1999/06/21)
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