『ピーターパン』 (1953年アメリカ作品)


(C)Walt Disney Company.
原題/Peter Pan
監督/ハミルトン・ラスク、クライド・ジェロニミ、ウィルフレッド・ジャクソン
カラー 77分
 吹き替え版を持っていて、家に子供が遊びにきたときに見せたりしてるから、断片的にはよく見てるんだけど、まともに見たのはほぼ10年ぶり。そして残念ながら劇場で見たことはない。
 ぼくが最も映画を見ていた大学時代には、これらのクラシック・ディズニーアニメーションはほとんどリバイバルされることがなく、劇場で見ることはまず不可能だったのだ。わずかに『ファンタジア』(1940)のリバイバルがあったのと『バンビ』(1942)が、実写ディズニー映画の併映作品として公開された程度だった(確か実写映画の方は『雪だるま超特急』だったと思う)。
 ということでディズニーアニメは見られるだけで貴重だったため、『ファンタジア』はテアトル東京へ3日間通い詰めて12回、『バンビ』は上野の2番館へ1週間通い詰めて25回ほど見た。『バンビ』の方は併映作品もあるため、その間はロビーで本を読んでいたりして、もうほとんど意地でしたね(笑)。
 そんな貴重な『ピーターパン』をいつでもビデオで見られるとなると、10年間も見ないんだから呆れてしまいます。
 作品は、文句なくディズニーアニメの最盛期の1本として楽しめる。良くも悪くも『ピーターパン』といえばこのアニメーションを思い浮べるほどの作品であることは疑いない。この時期のディズニーアニメはなべてディティールの描写に手抜きがなく、何度見ても細部の粋なアニメーション的“お遊び”に胸がときめく。
 ネバーランドが決して子供たちの美しい夢にあふれた理想郷でないのもいいですね。ティンカーベルや人魚たちが、新参者のウェンディに対して嫉妬して彼女をからかったり軽いいじわるをしたりする。もちろん人食いワニやフック船長一味など危険もいっぱいである。ディズニー作品は、しばしばその世界観が偽善的に過ぎることも多い中で、『ピーターパン』のこのネバーランドの描写はむしろ居心地がいい。これこそが本当に子供が見る夢の世界というものだろう。悪夢の楽しさとでもいうか、目が醒めてからホッとしつつ懐かしむ、そんな夢の世界がこのネバーランドにはある。
 今回、この作品に、それを裏付ける興味深い描写が密かに仕掛けられていることに気がついた。といっても大したことじゃないんだけどね。
 その仕掛けとは、アニメ的に誇張されゴムマリのように伸縮する登場人物たちの中にあって、唯一、主人公の少女・ウエンディだけが実写に近いリアルな描写のままだということである。物語の主人公はもちろんピーターパンだけど、観客が感情を仮託するのは、ピーターパンに連れられてネバーランドを冒険する少女・ウエンディである。その観客代表であるウエンディだけがデフォルメされていないってコトは、実は大変意味が深い。だって、彼女こそがこの途方もない冒険の夢を見ている本人なのだから。

(1999/06/04)


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