『パリ空港の人々』(1993年フランス作品)

原題/Tombes du Ciel
監督/フィリップ・リオレ
主演/ジャン・ロシュフォール、イスマイラ・メイテ
カラーシネマスコープサイズ 91分
 冒頭、カメラが空港の入国審査カウンターに並ぶ人の足をズーッとナメていく。と、その中に靴下だけの足がある。いきなりつかみはオッケー的なオープニングに面白さの予感が走った。
 その男はすべての所持品と靴を盗まれたのだと弁明するが、入管は入国を認めず、男は空港に足止めをくってしまう。そして実は空港には、同じようにさまざまな事情で留置されている数人の男女が暮らしていた。
 出国も入国も認められない彼らは、囚人の不自由さと何にも属していない自由さの両方を併せ持っている。空港の手続きの煩雑さとお役所的な頭の固さをからかいながら、自由というものを考えさせる巧みな構成が素晴らしい。
 この映画がデビュー作だというリオレ監督は、TVガイドの解説によればロバート・アルトマン監督に師事したとのことで、そのつもりで見ると、集団をマスとして整理して描くのではなく、個人の集まりとしてもつれ合った人間関係をもつれたままに描くあたりはアルトマン調と言えなくもない。この監督の別の作品も見てみたくなったけど、「TENUE CORRECTE EXIGEE(正装のご用意を)」(1996)という日本未公開作品があることくらいしか分からなかった。
 ところでぼくはフランス事情にはまるで疎いのだが、「パリ空港」というのは実在するのでしょうか? もしも実在する空港を描いているのだとしたら空港側から名誉毀損で訴えられるのではないかと心配になってしまいます。例えば彼ら不法滞留者が、滑走路に棲みついている野ウサギを捕まえて空港職員用食堂のコックに密売してたりとか、セキュリティの甘い部分を知りつくしているため、空港各所を自分の庭のように歩きまわっていたりとか。何より、主人公の男の妻が空港に迎えにきていて必死に面会を求めるのに無下に追い返すとか。とにかくこれを見たら「パリ空港ってひでぇ所だなー」と思ってしまうことは必至なのである。もちろん映画だから「すべてはシャレ」なんだけど、お役所にこういうシャレは通じませんからねー。

(1999/06/01)


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