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『Ecole エコール』 (2004年 フランス作品) |
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ストーリーらしいストーリーはなく、あるのは、ただ漠然とした夢と不安と期待と絶望と、自分自身にも予想できない深い霧の向うの未来だけ……。
物語は、この寄宿学校に新入生が棺桶に入って(!)運ばれてくるシーンから始まる。
運ばれてきた棺桶の周りに、ひとり、またひとりと少女たちが集まってくる様子を、カメラはその足元だけで捉える。真っ白なスカートから伸びたほっそりとした足が2本、また2本……。このシーンでぼくはこの映画が優れた少女映画であることを確信した。
実は少女の“足”には少女そのものを直喩する強力な求心力がある。端的に言うと、セクシャルな色香を発散する以前の少女のフェティッシュな魅力を表現するのに欠かせない装置なのである。
この映画の監督はそれを実に良く分かっている。突き出しがおいしい店は、メインの料理も絶対に美味しいのである。
そしてここで描かれているのは、大人へと脱皮する前の、まだ妖精だった時期の少女たちの姿。そう、少女には確かに人間になる前に妖精の時期がある。
この映画の監督は、それを森の中の学校という閉ざされた舞台装置を作り出すことで、周りの夾雑物を排して純粋に抽出して見せた。そして繊細なカメラワークがそれを見事に映像化している。
無邪気な川遊び、森の中を通る薄暗い一本道を歩く少女の後ろ姿など、それらを見つめているだけで、ぼく自身が幼いころに感じていた漠然とした不安や恐怖がよみがえってくるようだ。
霜で凍りついた寒々とした森と少女という風景からは、ぼくの大好きな映画『シベールの日曜日』をも思い出させてくれた。
やはり、こんな少女をこれほどまでにファンタジックに描けるのはフランス映画をおいて他にないですね。あえて言うならば、日本ではぜひとも大林宣彦監督に撮っていただきたい。大林版『Ecole』本当に見たいぞ。
ちなみにこの映画の原題は『INNOCENCE』だったが、日本では押井守監督の同名の映画があったために、企画段階の仮タイトルだったという『Ecole』(“学校”という意味)で公開されることになった。“イノセンス(無邪気・無垢)”という言葉は外来語としてある種の固定的なイメージを持つ方もいると思うので、これはかえって良かったと思う。
原作は1888年にドイツの劇作家フランク・ヴェデキントが発表した『ミネハハ』という短編小説で、実はこの原作小説からは、過去にイタリアで映画化された作品があり、それが何とダリオ・アルジェント監督のホラー映画『サスペリア』(1977)なのだという。
確かにバレエ学校を舞台にはしているけど、ストーリーもコンセプトも全然違うぞ! 原作はいったいどれだけ懐が深い話なんだろうか。原作は未読なんだけど、これを機会にぜひ読みたくなりましたね。
ミネハハ フランク ヴェデキン 市川 実和子 リトルモア 2006-12-05 by G-Tools |
エコール サウンドトラック レオシュ・ヤナーチェク 他 cinemania35 2006-10-29 by G-Tools |
Ecole(エコール)―Les poup´ees d’Hizuki dans l’Ecole 陽月 飛鳥新社 2006-09 映画『Ecole』に登場する少女たち7人を、人形作家・陽月がビスクドールによって制作 by G-Tools |
サスペリア プレミアム・エディション ダリオ・アルジェント ジェシカ・ハーパー アリダ・ヴァリ 紀伊國屋書店 2005-07-23 by G-Tools |