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『潜水艦イ-57降伏せず』 (1959年 東宝作品)

監督/松林宗恵
製作/堀江史朗
原作/川村六良
脚本/須崎勝弥、木村武
撮影/完倉泰一
出演/池部良、三橋達也、三島耕、平田昭彦、土屋嘉男
モノクロ シネマスコープサイズ 105分
 太平洋戦争末期、潜水艦イ-57艦長河本少佐(池部)は、日米和平交渉のキーマンである某国外交官とその娘をスペイン領カナリー諸島まで運ぶという密命を帯び、マレー半島のペナン基地を出航した。完全に制海権を奪われた敵地をかいくぐっての命がけの航海が始まる。
 前から“潜水艦映画の傑作”という評判を聞いていて、ぜひ見たいと思っていた作品の1本だった。それが今回、久々の国産潜水艦映画『ローレライ』の公開にちなんで日本映画専門チャンネルで放映されたため、こうしてようやく見ることができたのだ。
 開巻いきなり、何の前置きもなくイ-57の甲板から人間魚雷回天が発艦するシーンから物語は始まる。ハードな男の映画を予感させる期待感たっぷりのプロローグだ。
 そして実際にその期待を裏切ることなく、映画は潜水艦内における個性的な人間模様をリアルに描き出していく。恐らく物語の8割以上が潜水艦内を舞台としていると思う。
 そんな中で、この映画を見ていて気持ちよかったのは、潜水艦という密室内でのドラマであるにもかかわらず、意見が対立して派閥が出来たり裏切り者が出たり、自分だけが助かりたいというエゴがむき出しになるなど、洋物映画にありがちなヒステリックなストーリーになっていかないところだ。
 むしろ反対に外交官の娘としてただひとり乗り込んでいる白人の女性ミレーヌ(マリア・ラウレンティ)が、日本人に対して強い偏見を持ち、かつわがままの言いたい放題なのを、池部艦長以下乗組員全員が、辛抱強く面倒を見て、次第にその心を開かせていく。いやー、これぞ日本映画の醍醐味ですな。
 例えばこの艦長がジョン・ウェインだったら……女性の頬をバシッと平手打ちして部屋ん中へ放り込んで外からカギ掛をけちゃったりして、でも後でまた気まずそうな顔をしながら入ってきて温かい食事を差し出し、不器用な言葉を一言二言かける。かなんかっていう展開になりそうでしょ(笑)。それで女性も自分のわがままに気づいて素直になっていくという……。もちろんこういう展開も大いにアリなわけで、これまた大好きなパターンではあるんだけどね。やっぱ日本人的とは言えないよね。
 戦争を舞台とし軍人を主人公としながらも、本当は誰もが平和を愛し願っているんだというテーマを嫌味なく伝え、それを十分に楽しめる娯楽アクションに仕上げてしまうところは、かつての東宝戦争映画が得意としたところで、この映画でもその良さが存分に出ている。
 それに大きく貢献しているのが、全編を通じて艦長を補佐する役目を担っている先任将校志村大尉役の三橋達也の飄々としたキャラクターだ。三橋のざっくばらんなところと池部の実直さが好対照となって、どちらもが魅力的な人物として浮き彫りになっていくところはまさにベストなキャスティングと言えるだろう。
 監督の松林宗恵は、1950年代から'80年代まで活躍した監督で、そのフィルモグラフィを見ると、森繁の社長シリーズから『連合艦隊』(1981)などの戦争大作まで、何でもこなす職人監督であることが分かる。
 そんな中で、ぼくが過去に見てきた作品での松林監督の演出の印象は、全体的にゆるい演出で役者に自由に演じさせる監督と言う印象が強かったんだけど、今回の映画を見てその印象を改めた。この映画での人物配置の緻密さと計算された演出は見事の一言だったからだ。今後はもっと彼の演出術に注意しながら松林作品を見なければ。

(2005/03/27)

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