Top 柴又名画座 No.235 Back
『小さな唇』 (1978年 イタリア=スペイン合作作品)


©1979 Alba Cinematografica
原題/Piccole Labbra(Little Lips)
監督/ドメニコ・カタリニチ
製作/フェリス・トゥセル
脚本/ダニエル・サンチェス
撮影/サンドロ・マンコーリ
出演ピエール・クレマンティ、カティア・バーガー、ホセ・ルイス、バルバラ・レイ
カラー ビスタビジョンサイズ 76分
 以前から気になっていた作品なのだが、ずっと見る機会を逸していて、先日、ふと気まぐれに google で検索したらDVDが発売されていることが分かり、さっそく注文した。
 戦争から復員した小説家のポール(ピエール)は、心と体に深い傷を負い、かつての恋人クリスタ(バルバラ)とも別れ、自室にひきこもる日々。そんなある日、ポールはまだ幼い美少女エヴァ(カティア)と出会う。両親と死別し身寄りのなくなったエヴァは、ポールの執事で伯父のフランツ(ホセ)の元へ身を寄せていたのだ。
 人生に絶望し自殺を決意していたポールだが、エヴァの純真無垢な心と接してそれを思いとどまり、いつしかエヴァを女として愛するようになっていった。
 DVDのジャケットに書かれている解説によると、ナボコフの小説「ロリータ」を下敷きにしているということだけど、「ロリータ」とこの作品の共通点は主人公が作家であることくらいで、他に共通項は見当たらない。むしろこうしてプロットだけを書くと、セルジュ・ブールギニョン監督の名作『シベールの日曜日』(1962年 フランス)の方が近い気がする。

まさにヨーロッパ的な、目鼻立ちのはっきりした美少女カティア・バーガー。このカットはわりと大人びて見えるが、もっと幼く見えるときもあり、実際の年齢は11〜12歳くらいだろうか。その他の出演作を検索してみたけど残念ながら見つかりませんでした。
 実際、ポールが少女と出会うまでの流れなどは『シベールの日曜日』にそっくりである。ただ違うのはそこからで、互いに心に深い傷を負った孤独な魂の触れ合いを描いた前者と違い、この作品では、主人公ポールが、エヴァの中に少女の純粋な美しさとは別に「女」としての魅力をも見出し、葛藤する姿を描くことで、よりエロチシズムが強調された作品となっている。まー有り体に言ってしまえば、イタリア映画らしいスキャンダラスでインモラルな切り口になってるってことなんですけどね(笑)。
 各シーンの映像は美しく、流麗な音楽と相まって叙情的なトーンでまとめられているので、漫然と見ていると、芸術的な作品という印象で終わってしまいそうだが、ふと理性的に考えちゃうと、どうも違和感が残る。展開的に、主人公ポールは戦争で心と体に受けた傷を癒す逃避としてエヴァを愛しているとしか思えず、いくら何でもこれはどうかなー、と思ってしまうのだ。ふたりの間の心のつながりがもう少しきめ細かく描かれていれば、ポールがモラル的に破綻した男とは映らず、ふたりの許されざる禁断の恋も、もう少し美しく描けたのではないかと思うとちょっと惜しい。
 ただ、ポールが実は性的に不能になっていたということが物語の中盤になってようやく明かされるあたりは、少女との永遠に埋まらない距離感を絶望的に象徴する表現として見事だった。
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 それと面白かったのは、復員したときのポールは鼻の下に紳士然としたヒゲをたくわえていたのが、エヴァに恋をし始めたときにスッパリとこのヒゲを剃ってしまうことだ。これによってポールが一気に若返ったように見え、ふたりの心的な距離感がぐっと縮まって見えるという、これもなかなかしゃれた演出ではありました。
 カティア・バーガーは、大人の意図するエロスをうまく表現していたが、表情に乏しいのが残念。ぼくとしては、もっと本来の子どもらしいいきいきとした姿を見せて欲しかったですねー。
 因みに、この映画のオリジナル版の上映時間は84分あるそうで、このDVD版は一部がカットされた短縮版となっている。しかしそのカットされたシーンの一部が特典映像として添付されているという妙なソフトなのでした。

(2004/09/01)


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