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柴又名画座
No.221
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『素晴らしき放浪者』
(1932年 フランス作品)
原題/BONDU SAUVE DES EAUX
監督・脚本/
ジャン・ルノワール
原作/ルネ・フォーショワ
撮影/マルセル・リュシアン
音楽/ラファエル、ヨハン・シュトラウス
出演/ミシェル・シモン、シャルル・グランバル、マルセル・エイニア、セヴェリーヌ・レルシンスカ
モノクロ スタンダードサイズ 84分
浮浪者ヴーデュ(シモン)はこの世にオサラバしようとセーヌ川に身を投げた。ところが気のいい古本屋の主人(グランバル)に助けられ、そのまま居座って、わがままのいい放題、部屋は荒し放題、奥さんにもお手伝いの女性にも言い寄る始末。ついに主人も堪忍袋の緒が切れたと思ったのだが……。
イノセントと粗野と無常と……そんな人生の様々な側面を皮肉たっぷりに描き出したジャン・ルノワール初期の傑作喜劇である。何と日本では1977年まで公開されていなかったなんてもったいない。
ぼくは大学時代に映画学の授業で、山本喜久男先生からこの映画を紹介され、すぐに名画座で見て大いに感動!! 以来、20数年振りの再見となる。
学生時代に見たときには、この男の図々しさにまだ不快な部分が感じられたのだが、やっぱ若かったんですね。今になって見ると不快どころか1つ1つの動作がおかしくてしょうがない。
気取った中流階級の人間たちも、一皮むけばみな同じだということを、この浮浪者ヴーデュは体全体でパロディにしているのだ。
冒頭近く、ベンチで寝ているヴーデュのそばを通りかかった金持ち母娘が、ヴーデュにお金を恵んでくれる。ヴーデュが
「何で俺に金をくれるんだ?」
と尋ねると、娘は
「パンを買うためよ」
と答える。そして面白いのはこの次のシーンだ。ヴーデュは紳士の運転する車のドアを開けてやりチップを要求する。ところがその紳士が小銭を持ち合わせていないと分かると、ヴーデュは
「ないのか? だったら俺がやるよ」
と言って、さっき母娘にもらったチップを紳士にあげて立ち去る。「パンでも買いな」と言って。
金に執着せず、食事にも、人間づきあいにも全く執着しない自由人、それがヴーデュなのだ。
ヴーデュは、川で溺れていたところを助けられ、最後はまたまた川の流れに乗っていずこへともなく去っていく。この川の流れの大らかさとヴーデュの気ままな生き方がオーバーラップして何とも楽しくなってくる。と同時に、この川の流れの描写に満ちた喜劇らしからぬ詩情(リリシズム)は、まさしくルノワール映画ならではの味わいだろう。
因みに、ラスト近く、ヴーデュが山高帽と燕尾服で案山子を抱えてドタドタと歩くのは、かの放浪紳士チャーリー・チャップリンのパロディですね(笑)。
ポール・マザースキー監督、ニック・ノルティ主演のアメリカ映画『ビバリーヒルズ・バム』(1985)が、この映画のリメイクだというのは良く知られているが、ぼくが思うに、日本にもこの映画を下敷きにしたんじゃないかと思う佳作が1本ある。山田洋次監督、ハナ肇主演の『なつかしい風来坊』(1966)がそれ。機会があったら見比べてみてください。
(2003/12/18)
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