今を去ること22年前……当時18歳の手塚真(現・手塚眞)くんが、大学入学と同時にプロジェクトを立ち上げ、多くの若い自主映画作家やその仲間を巻き込んで、およそ1年をかけて作りあげた大作8mm映画である。
ちょっと前置きが長くなってしまうけど、ぼくとこの作品との関わりを書いておくと、ぼくもこの作品が作られる前年の1979年に拙い8mm映画を作り、それを雑誌「ぴあ」のオフシアター・フィルムフェスティバル'79というイベントに投稿した。それが縁となって、手塚真くんを始め、今関あきよしくん、小林ひろとしくんらの映画仲間と知り合い、お互いの映画を見せ合ったり、上映会を開いたりという交流が始まった。
そんな流れの中で、手塚くんが新しい映画を撮ることになり、ぼくも一緒に参加しないかというお誘いを受けたのだ。それはぼくにとってとてもうれしいことではあったが、同時に不安も大きかった。
というのは、そのころすでに手塚くんは、高校生のころに監督した『FANTASTIC★PARTY』(1978)という8mm映画で高い評価を受けており、今後の活動が大いに注目されていた作家だったからだ。おまけに撮影を担当するのは、これまたすでに『ORANGING'79』という大々々傑作をものしていた今関あきよしくんであり、それ以外のメインスタッフたちも、それぞれに自分自身の監督作品を持っていたり、何らかの秀でた才能を持った優秀な人たちばかりが集まっていたのだ。そんな中でぼくはといえば、わずか数本の、それもほとんど習作のような8mm映画を撮った経験だけしかなく、そんなぼくにいったいどんな協力ができるのだろうかと考えてしまったのである。
それでもぼくが迷ったのは、恐らく現実の時間にすれば0.5秒くらいだろう。ぼくは「自分のできることを精一杯やろう!」と腹を決め、意を決して参加を引き受けた。何しろ、手塚くんの入魂の新作が誕生する、まさにその瞬間、その過程に立ち会えるのだ! こんな幸せなことはないではないか!!
当時スタッフルームのようになっていた今関くんの家の2階で、プロデューサーの湯本くんから、真新しく分厚いシナリオを手渡されたときの、身が引き締まるような気持ちを、ぼくは今でもはっきりと思い出すことができる。
ただ実際に撮影が始まると、現場となったエリアとぼくの自宅が遠かったために、残念ながらフル参加というわけにはいかなかった。しかしそれでも撮影にはできる限り出席し、スティル写真の撮影やエキストラ出演などで、わずかながらでもお手伝いができたんじゃないかと思っている。また、当時ぼくが発行していた映画ミニコミ誌『ふぁにぃかんぱにぃ』でもこの映画を全面的にバックアップ。撮影ルポやスタッフのコラム、SF作家新井素子さんと手塚真くんの対談などを掲載して大いに盛り上げたのであった。
そんな思い出深い映画が今回、ポニーキャニオンからDVDになって発売さることになり、それを記念して、ここ渋谷のアップリンクファクトリーで上映会が開かれたのである。
ストーリーは、高校生の女の子・ポッキー(矢野)が、こおろぎ広場の良く当たる占い師(石上三登志)から「あんたは3日後に死ぬ」と予告されたところから始まる。
深刻に悩むポッキーの周りでは、クラスメートの団三郎(小林)がアリス(今井)への片想いに悩み、そのふたりの仲を取り持とうとする矢野(西村)がポッキーに相談を持ちかけたりと、何気ない日常が展開していく。そんな中、病弱な少年(登駒和呈)や、町を爆弾で破壊しようとするアナーキストかぶれの少年(豊田)などが次々と現れてはポッキーの不安を高める中、ついにその3日目が訪れる。ポッキーは最後の瞬間をボーイフレンドの小田(船越)と共に過ごそうとするのだが……。
ぼくがこの映画を見るのは実に10年ぶりのことだ。実は当時スタッフだった友人からVHSにダビングしてもらったものは前から持ってたんだけど、見るのがもったいなくて、2度ほど見ただけでずっと大切に封印してあったのだ。
その封印を解き、今回再見してつくづく驚いたのは、当時の手塚くんの演出の明晰さとストーリー構成のシャープさである。技術的にも機材的にも不十分な環境でやっているため、たまに表面的に拙く見える場面などがあるのは仕方ないが、一貫した演出の視点にはまったくブレがない。これには本当にびっくりである。実際、この作品は、20年以上たった今でも、全く緊張感を失わずに見ることができる。
マンガ的にデフォルメされたコミカルなタッチで始まった映画が、やがて少しずつネガティブな面をあらわにし始め、やがてアッと驚くシリアスなエピローグへと向かう……。当時のぼくには、この意外な結末に至った理由は、手塚くんのホラー趣味に由来するものとしか見えていなかったことがお恥かしい。今になってようやく分かったことは、これは綿密な計算の元に手塚くんが仕掛けた、フィクションと現実との接点を見出す壮大な実験だったということだ。
この作品についてはまだまだ語るべきことは山ほどあるような気がする。映画史的に見ても、手塚眞の作家や作品を研究するという側面からも。
でもぼくには、これ以上この映画について作品論は語れそうにない。何しろぼくにとってこの映画は、1シーン1シーンがどれも青春の一時期そのものの象徴なのである。この映画の中では、あのころ出会った多くの仲間たちが、今も変わらぬ笑顔を見せている。そしてそんな彼らにレンズを向けていた今関くんの8mmカメラの後ろには、あのころの22歳のぼくがいたのだ。
因みに、ぼくがこの映画にエキストラとして出演しているのは以下の2シーンです。まずひとつは冒頭の教室の場面で、ここでは生徒のひとりとして、頭のてっぺんに赤塚不二夫のマンガに出てくるハタ坊のような日の丸の旗を立て、机の上で焼きそばを焼くという奇妙なキャラクターとして登場している。ぼくは今でも自画像を描くときには頭のてっぺんに日の丸を立てて描いているがそのルーツはここにある。
あともうひとつは中盤のミュージカルシーンで、踊りのセンスがまるでないのに真っ赤なシャツと真っ白なジーンズという目立つ服装で参加していて、今見るととても恥かしい(笑)。でも、DVDを買われた方でおヒマな方は、よかったらチェックしてみてくださいね。
それから参考までに、ポニーキャニオンのホームページはこちら。同サイト内の『MOMENT』紹介ページはこちらです。因みに『MOMENT』から派生して、当時東京12チャンネル(現・テレビ東京)で放送された「お茶の子博士のホラーシアター」という、手塚くん監督による幻のホラー短編シリーズも今回DVDとして同時発売されています。手塚眞ファンはぜひチェックしてみてください。※外部リンクのためリンク切れになる場合があります。